能力不足による解雇が認められるのはどのような場合か

人事労務
村松 頼信弁護士 祝田法律事務所

 当社のある従業員が担当業務に必要な能力水準に達していないことに悩んでいます。場合によっては解雇もやむを得ないと考えているのですが、法律ではどのようなときに解雇が認められるのでしょうか。

 裁判実務においては、職務遂行能力の不足や勤務成績の不良を理由とする普通解雇の有効性は極めて厳格に判断されており、有効と認められることが非常に難しいといえます。具体的には、裁判実務においては、以下の諸事情を総合的に考慮して、解雇の有効性が判断されています。

  1. 勤務成績等の不良の基準
  2. 勤務成績の不良の程度
  3. 多数の具体的な事実があること
  4. 改善の余地がないこと
  5. 使用者側に労働者の指導または管理体制上の落ち度がないこと
  6. 他の労働者と不均衡な取扱いをしていないこと
  7. 真の違法な解雇事由が別に存在する場合でないこと

解説

目次

  1. 解雇が認められる場合
  2. 裁判実務における能力不足による解雇の有効性の具体的判断基準

解雇が認められる場合

 使用者(企業)が労働者(従業員)を有効に解雇するには、解雇に客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当であると認められることが必要です(労働契約法16条)。

 使用者が労働者を解雇するには、その根拠となる解雇事由が就業規則に規定されていることが必要となるところ、解雇事由として規定されている「労務遂行能力の不足」や「勤務成績の不良」を理由として普通解雇を行う場合、裁判実務においては、普通解雇の有効性が極めて厳格に判断されており、有効と認められることが非常に難しいといえます。

 なお、厚生労働省の「モデル就業規則」では、勤務成績が不良で解雇する場合について、次の規定例を紹介しています。

(解雇)
第51条 労働者が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。
  1. 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき。
  2. 勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき。

裁判実務における能力不足による解雇の有効性の具体的判断基準

 具体的には、裁判実務においては、以下の諸事情を総合的に考慮して、解雇の有効性が判断されています。

(1)勤務成績等の不良の基準

 勤務成績が不良か否かの判断基準は客観的に合理性がある基準によるべきであるとされ、具体的には、職務に必要な本質的な能力、勤務態度、労働者に期待される職責等を当該企業の種類・規模・職務や労働者の採用理由等から客観的に判断する必要があります。

(2)勤務成績の不良の程度

 解雇は労働者に著しい不利益をもたらすものであることから、企業に重大な損害を与えたり、企業経営や業務運営に重大な影響や支障を及ぼしたりした場合に初めて解雇に合理性が認められるとされています。

(3)労働者に多数の具体的な事実があること

 成果不良、個々の過誤、異常な言動が恒常的に繰り返される場合、1つ1つの出来事は些細であるか、それほど重大・悪質とはいえなくても、それらを総合すると、労働者の一般的な能力や勤務態度の不適格性が推認される結果、勤務成績の不良の程度が重大と判断されるとされています。

 実際の裁判例にも、各事実は個々的には解雇に値するほど重大な事実ではないとしても、上司から受けた指示への不適切な対応や職務上のミスの頻度の多さ等から、解雇を有効と判断した例があります(ゴールドマン・サックス・ジャパン・リミテッド事件・東京地裁平成10年12月25日判決・労経速1701号2頁桐朋学園事件・東京地裁平成16年9月30日判決・労経速1885号22頁)。

(4)労働者に改善の余地がないこと

 使用者側が労働者に改善矯正を促し努力反省の機会を与えたのに改善されず再度繰り返したことを、解雇の有効性を基礎づける理由として挙げる裁判例が多いとされています。

 この点に関しては、解雇が労働者に与える不利益の大きさに鑑み、解雇は労働契約を解消するための最終的な手段として行使されるべきものであるとの考え方から、解雇回避措置として、①使用者による注意、指導、是正警告、教育的措置等、②職種転換、配転・出向、休職等を講じる必要があります。ただ、実際にどのような措置を講じるべきかは、その労働者に要求されている職務遂行能力の内容に照らした能力不足の程度の重大性などによっても異なってきます。

 さらに、どの程度改善の余地がないといえる必要があるか(どの程度の解雇回避措置を講じる必要があるか)は、以下のとおり、対象となる労働者の役職、性質、採用時に期待された適格性等によっても異なります。

①長期の雇用が前提とされ、職種限定などがない若手労働者の場合

 職務能力の不足を理由とする解雇が有効とされるためには、当該労働者に要求されている職務遂行能力のレベルからみて再々の指導、教育、研修会の付与によっても容易に是正しがたい程度に達し、職務遂行上の支障を発生させていることを必要とし、さらに、当該支障を発生させている場合でも、配転・降格等により当該労働者の能力を向上させ活用する余地があれば、それらの解雇回避措置により雇用を継続させる必要があります

②管理職や高度専門職の場合

 これらの従業員の場合、その職責上、能力・成績不良が一般従業員よりも厳しく判定され、その程度が著しい場合には、使用者として雇用を維持すべき要請が減退し、能力向上等の機会を付与することなどの解雇回避措置を実施することなく行った解雇も有効と認められる可能性があります。ただし、ある程度の事前指導、注意、職種転換による雇用継続の努力は必要であって、解雇回避措置を検討することが全く不要となるということではありません。

③地位・職種を特定して中途採用される管理職・専門職従業員の場合

 一般従業員としての適格性は問題とならず、むしろ、特定された地位・職種に要求される高度の職務遂行能力や適格性の有無が判断基準となります。その基準を満たさない場合には、上記①や②の場合以上に使用者の雇用を維持する要請は大きく減退し、ほとんど解雇回避措置が実施されていない場合であっても、解雇が有効と認められ得るといえます。

(5)使用者側に労働者の指導または管理体制上の落ち度がないこと

 当該事情は上記(4)の裏返しであり、労働者の怠慢等について上司・同僚が注意を与えることがないまま、当該勤務態度を理由として解雇することは、解雇の無効に傾く事情として考慮されることになります。

(6)他の労働者と不均衡な取扱いをしていないこと

 解雇権行使が社会通念上相当か(労働契約法16条)を判断するにあたり、他の労働者に対する過去の取扱いや解雇の事例との均衡も重視されます。これを「平等取扱いの原則」ということもあります。過去に、同程度以上に能力不足の労働者が在籍していたのに解雇が行われていない場合は、不当に重い手段として解雇が無効と判断される方向の事情として評価されます。

(7)真の違法な解雇事由が別に存在する場合でないこと

 真の解雇事由が違法なもの(差別など)である場合には、勤務成績の不良等の事実が現実に存在する場合であっても、解雇は無効とされます。

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