ベトナムの法令や司法制度の特徴

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 ベトナムの法制度の特色を教えてください。ベトナムの司法において、裁判所の先例はどのような機能を果たすのでしょうか。また、司法、立法、行政はどのように機能しているのでしょうか。

 ベトナムの法律は、歴史上、旧ソ連時代のソ連法をモデルにして制定されましたが、近時は、日本を含む大陸法や英米法の影響も急速に強くなっています。ベトナムにおいては、裁判所の裁判例には先例拘束性がないため、あくまでも過去の事例として参照されるにとどまりますが、近時、ベトナムの最高裁判所が、先例拘束性を有する「判例」制度を導入しました。また、三権分立制度は採用されておらず、裁判所の判断には政治的影響が及ぶため、必ずしも公平な判断がなされるとは限りません。

解説

目次

  1. 法制度の沿革
  2. 法制度の特徴
  3. 司法制度の特徴

法制度の沿革

 ベトナムにおいて、憲法や土地法等の基礎法の多くは、旧ソ連時代のソ連法をベースに制定された歴史があります。その後の改正によって、日本を含む欧州大陸法や英米法の考え方を急速に取り入れて、現在はかなり変容していますが、基本的な構造や基本思想は、いまだ旧ソ連法時代のものが色濃く残っている部分があります。

 たとえば、憲法において、三権分立は認められておらず、最高人民裁判所と最高人民検察院という司法機関は、首相を長とする行政府とともに、最高機関である国会の下にあり、共産党が、各国家機関を指導するという一党独裁・人民社会主義制度を保持しています。また、土地法上も、土地の私有は認められておらず、土地は全人民が所有し国家が管理するものであり、私人や私企業は、その必要に応じて土地使用権を保有するという制度が採用されています。

ベトナムの統治機構と司法機関

出典:法務省「ベトナムの統治機構、司法制度の概観

 もっとも、近時は、英米法、日本を含む欧州大陸法の影響も急速に強くなっています。民法、企業法や証券取引法、独占禁止法のような、(旧ソ連法において寄るべきモデル法が存在していない)市場経済に直結する法分野では、そもそも旧ソ連法の影響がなく、英米法、日本を含む欧州大陸法をモデルとして立法がされており、その法令の内容も、日本法と大きな違いはないケースが多く見られます。

法制度の特徴

 ベトナムにおける法制度は、まだ整備の途上にあるのが実態です。
 具体的には、企業法、投資法、民法という投資活動にとって基礎的な法律でさえ、法律の未整備法令相互間の不整合がよくみられ、どちらに従えばよいのかわからないケースや、法令の文言それ自体があいまいで予見可能性を欠くケースも多く見られます。
 さらに、運用面においても、省庁ごと、地方ごと、担当者ごとに解釈が異なっていることや、新しい法令の内容が行政窓口に共有されておらず、法令に沿った取扱いを受けられないことも珍しくありません。

 このように、ベトナムでは法令それ自体の整備はかなりの程度進んでいるものの、実態は、「法の支配」と「人の支配」が相半ばする状況と言わざるをえません。あいまいで相互矛盾するような法令の存在は、それを解釈する権限を持つ公務員に、大きな裁量を与え、解釈が不安定となり予測が立たないという問題とともに、それが汚職・不正の温床となる可能性を含んでいると言えます。

司法制度の特徴

 1でも少し述べましたが、ベトナムの憲法において、国家の最高権力機関は国会(憲法69条)とされており、国会の下に行政機関、司法機関が位置づけられています。したがって、三権分立による権力相互間の相互抑制機能はなく、司法権の独立はないため、裁判所を含む司法は政治的影響を強く受けることになります。また、法令の解釈権は国会にあり、裁判所にはないとされています。

 裁判所が過去に出した裁判例は、一般には公開されておらず、別の裁判官に対する拘束力もないとされています。ただし、近時になって、ようやく最高人民裁判所(日本の最高裁判所に相当)によって、ベトナムにも先例拘束性のある「判例」制度が導入され、いくつか実際の「判例」も公開されていますが、まだ数は限定されており、ビジネス法務分野の実務において参照するべき有用なものが出揃っているとは言えない状況です。

 さらに、裁判官のレベルや汚職の問題もあり、日系企業にとって、ベトナムの裁判所は紛争解決手段として極めて使いにくいのが実情です。

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