固定資産税の実務上のポイント(6)- 固定資産の評価額が違法となるのはどのような場合か?(中編)

税務
山田 重則弁護士 鳥飼総合法律事務所

 自治体による固定資産(土地、家屋)の評価額が違法となるのは、どのような場合でしょうか。

 自治体による固定資産(土地、家屋)の評価額が違法となる場合は、以下のように整理することができます。今回は、評価額が違法となる事例②と③について解説します。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 登録価格が違法となる事例②(評価要綱を正しく適用した価格を超える場合)
    1. 「評価要綱」とは
    2. 評価要綱を正しく適用した価格を超える場合とは
    3. 参考判例(横浜地裁平成18年5月17日判決・最高裁ウェブサイト
    4. 小括
  3. 登録価格が違法となる事例③(自治体の評価要綱が不当な場合)
    1. 自治体の評価要綱が不当な場合とは
    2. 参考判例(大阪地裁平成29年12月19日判決・裁判所ウェブサイト大阪高裁平成30年10月25日判決・裁判所ウェブサイト、最高裁令和元年12月17日判決)
    3. 小括
  4. まとめ

はじめに

 「固定資産税の実務上のポイント(5)- 固定資産の評価額が違法となるのはどのような場合か?(前編)」では、自治体による固定資産の登録価格(=評価額)の違法性を判断する際の枠組みについて解説しました。この判断枠組みを念頭に置きつつ、固定資産の評価額が争われた判例を分析すると、固定資産の評価額が違法となる事例はいくつかに類型化できることがわかります。そこで、今回は、固定資産の評価額が違法となる事例②と③について、参考となる裁判例をとりあげつつ、解説します。なお、類型化の方法については正解があるわけではなく、今回、解説した以外の整理の仕方も考えられます。

登録価格が違法となる事例②(評価要綱を正しく適用した価格を超える場合)

「評価要綱」とは

 固定資産評価基準は、全国一律の統一的な評価基準としてすべての自治体に適用されますが、地域の実情に応じて各自治体がこれを補正することも許容されています。これを「所要の補正」といいます。土地についても家屋についても「所要の補正」があります(固定資産評価基準第1章第3節二(一)4、同第2章第1節六1)。

 土地の「所要の補正」としては、土地の固定資産評価基準の附表で定められている補正率の数値の補正や固定資産評価基準では定められていない個別的な土地の減額要因に関する定めがあげられます(「固定資産税の実務上のポイント(3)- 土地の評価方法とは?宅地を中心に」をご参照)。

 家屋の「所要の補正」としては、家屋の固定資産評価基準の評点基準表で定められている標準評点数の数値の補正や固定資産評価基準では定められていない資材や設備の標準評点数に関する定めがあげられます。

 そして、各自治体の「所要の補正」の内容は、「〇〇市土地評価要綱」や「〇〇市家屋評価事務取扱要領」といった行政内部の規則に定められます(以下では、単に「評価要綱」といいます)。このように、「評価要綱」とは、各自治体が「所要の補正」等の固定資産の評価方法について定める行政内部の規則であり、講学上は「行政規則」にあたります。評価要綱は、行政内部の規則という性質を有するため、一般に公開していない自治体もありますが、これをウェブ上で公開している自治体もあります。

 なお、評価要綱には、「所要の補正」以外の固定資産の評価方法についても定められるため、「評価要綱」=「所要の補正」というわけではありません。

評価要綱を正しく適用した価格を超える場合とは

 上記のとおり、土地、家屋のそれぞれについて「所要の補正」があります。
 各自治体は、「所要の補正」として土地の評価要綱に以下のような個別的な減額要因を定めることがあります。

減額要因とされることの多い要因

  1. 接面道路との高低差のある宅地
  2. 接面道路の幅員の狭い宅地
  3. 接面道路と土地との間に用排水路等のある宅地
  4. 接面道路に歩道橋が設置されている宅地
  5. 新幹線、在来線、空港、高速道路等に近隣する宅地
  6. 土砂災害防止法等の規制区域内の宅地
  7. 地下鉄、公共下水道等の地下阻害物のある宅地
  8. 建築基準法上の規制のある宅地
  9. 高圧線下の宅地
  10. 都市計画予定地を含む宅地

 たとえば、評価要綱では、「所要の補正」として、道路との高低差が一定以上の土地について一定の減額を定めていたものの、自治体が土地の評価を行う際、この減額要因を見落としてしまうことがあります。この場合、その土地は本来の評価額よりも過大に評価されています。

 もっとも、この場合、自治体は、直接的には、評価要綱という行政内部の規則(行政規則)に反したにすぎません。そして、行政規則は、「法」ではありませんので、これに反することが「違法」となるかが問題となります。

 評価要綱中、固定資産評価基準の「所要の補正」を具体化した定めの適用にミスがあれば、それは固定資産評価基準の定める「所要の補正」にミスがあるということを意味します。そして、最高裁平成25年7月12日判決・裁判所ウェブサイトによれば、固定資産評価基準に反し、その結果、本来あるべき価格よりも過大に評価された場合は、違法となります。したがって、評価要綱中、「所要の補正」を具体化した定めの適用にミスがあり、その結果、これを正しく適用した価格を超える場合は、固定資産評価基準の「所要の補正」に反するものとして、自治体の評価額は違法となります。

参考判例(横浜地裁平成18年5月17日判決・最高裁ウェブサイト

 横浜地裁平成18年5月17日判決は、評価要綱と固定資産評価基準の関係性について判示しており、実務上、参考になります。

(1)事案の概要

 鎌倉市長は、本件土地の評価を行う際、固定資産評価基準の定める「がけ地補正」及び鎌倉市の評価要綱の定める「道路高低差補正」を適用しませんでした。本件土地の所有者らは、鎌倉市長がこれらの補正を適用せずに本件土地を評価したことは違法であるとして、鎌倉市に対し、国家賠償法に基づき、損害賠償を請求しました。

(2)裁判所の判断

 裁判所は、以下のとおり、市長は、特別の事情のない限り、固定資産評価基準とこれを補正、補完する評価要綱に拘束されるため、漫然とこれに反する評価を行った場合には、国家賠償法上、違法になると判断しました。なお、裁判所は鎌倉市長の本件土地の評価を違法と判断し、所有者らの請求を認容しました。

横浜地裁平成18年5月17日判決(抜粋)

…さらに、鎌倉市の事務取扱要領は、評価基準が…市町村長に、宅地の状況に応じ、必要があるときは、「画地計算法」の附表等について、所要の補正をしてこれを適用すると規定していることに基づき、評価基準の内容を踏まえた上で、これを補正、補完してより公平な固定資産評価を行うべく定められたものである。上記事務取扱要領は、大量の評価を全国一斉に同一時期に行う必要性及び課税の公平性を確保する必要性から、評価の基準及び評価実施の方法、手続等が詳細に定められたものであって、固定資産の評価に当たっては、評価基準と一体となって適用されるものである。したがって、固定資産の価格決定は、法の規定に従った評価基準及びこれを補正、補完した事務取扱要領に基づいてなされる必要がある。
 そして、このような評価基準及び事務取扱要領の制定の趣旨、経緯、租税公平の原則及び租税法律主義の手続保障的側面からすれば、被告の市長は、特別の事情がない限り、評価基準及び事務取扱要領に拘束され、被告の市長は、評価基準が定める評価の方法によることができない特別の事情がない限り、これらの規範に従って適切に固定資産の価格を決定する注意義務を負い、その適用に当たって被告の市長の裁量は著しく制約されているというべきである。
 したがって、被告の市長において、評価資料を収集し、これに基づき固定資産価格を決定する上において、上記規範に従わず職務上通常尽くすべき注意義務を怠り漫然と固定資産の価格を決定したといえる場合には、その行為には国家賠償法上の過失及び違法性が認められるというべきである。

小括

 評価要綱は、行政内部の規則にすぎませんが、行政内部の規則であるからといって行政が固定資産の評価を行う際にその適用の有無、適用の範囲を自らの裁量で決めてよいわけではありません。仮にそのようなことが許されれば、課税の公平性をはかることができないためです。「侵害規範の適用の場面では行政の裁量は否定ないし制約される」という行政法の根本的な考え方が本事案の裁判所の判断にも表れているといえます。

登録価格が違法となる事例③(自治体の評価要綱が不当な場合)

自治体の評価要綱が不当な場合とは

 各自治体は、土地、家屋の固定資産評価基準の「所要の補正」として、地域の実情に応じて独自の評価方法を評価要綱に定めることがあります。しかし、自治体の評価が固定資産評価基準に反して行われ、その結果、本来あるべき価格よりも過大に評価された場合にはその評価は違法となります(最高裁平成25年7月12日判決・裁判所ウェブサイト)。したがって、自治体が独自に定める評価方法が固定資産評価基準に照らして不合理であり、その結果、本来あるべき価格を超える場合には自治体の評価は違法となります。

 筆者は、日常的に自治体との間で固定資産の評価額に関し交渉を行っていますが、自治体担当者からは、「当市は当市の評価要綱を遵守して評価を行っていますので、何ら問題ありません」との回答を受けることがあります。しかし、評価要綱を遵守していれば問題がないというわけではなく、問題となるのはあくまで自治体の評価が固定資産評価基準に沿ったものかどうかです。評価要綱は「法」ではなく、行政規則にすぎないため、これを遵守したとしても違法になりうるという点には注意が必要です。

 前述の登録価格が違法になる事例②「評価要綱を正しく適用した価格を超える場合」と、この事例③「自治体の評価要綱が不当な場合」の区別ですが、前者は評価要綱そのものには問題はないもののその適用に誤りがある場合であり、後者は評価要綱そのものに問題がある場合です。

参考判例(大阪地裁平成29年12月19日判決・裁判所ウェブサイト大阪高裁平成30年10月25日判決・裁判所ウェブサイト、最高裁令和元年12月17日判決)

(1)事案の概要

 本件家屋の所有者は、大阪市による本件家屋の評価が違法であるとして国家賠償法に基づき、損害賠償を請求しました。本件では、大阪市の本件家屋の評価に関し、さまざまな点が争点となっていますが、本稿と関係する争点は、大阪市が評価要綱で定める「PHC杭」の評価方法が固定資産評価基準に照らして不合理かどうかです。

 本件家屋の新築時の評価の際に適用された平成9年度固定資産評価基準では、「既製杭」の評価方法について次のとおり定めていました。

固定資産評価基準の定める既製杭の評価方法

ア 「既製杭」の評価額は、「標準評点数28,500 × 使用された杭の本数」で計算する。

イ 使用された杭の体積が標準的な杭(末口径30㎝、長さ5m)のそれを超える場合には、
「標準評点数 28,500 × 使用された杭の本数 × 増点補正率」で計算する。

ウ 「増点補正率」は、5.00が最高限度である。
エ (増点)「補正率」は、以下の計算式による(平成9年度評価基準解説)。

 他方で大阪市の評価要綱では、「既製杭」にあたる「PHC杭」の評価方法について次のとおり定めていました。

大阪市の評価要綱の定めるPHC杭の評価方法

ア 「PHC杭」の評価額は、「標準評点数28,500 × 使用された杭の本数」で計算する。

イ 使用された杭の体積が標準的な杭(末口径30㎝、長さ5m)のそれを超える場合には、以下の計算式で計算する。ただし、使用された杭の長さは、増点補正率の最高のものとする。

ウ 「増点補正率」は、5.00が最高限度である。

 そして、大阪市は、本件家屋に使用された「PHC杭」の評価額を、「標準評点数28,500 × 41(本)× 8.64」と計算しました。
 本件家屋の所有者は、上記計算式のうち「8.64」という数値は、固定資産評価基準の定める計算式では「増点補正率」にあたるところ、「増点補正率」の最高限度は5.00である、そのため、大阪市の評価は違法であると主張しました。

(2)裁判所の判断

 裁判所は、固定資産評価基準の定める評価方法と大阪市が評価要綱で定めるPHC杭の評価方法のそれぞれについて、上記事案の概要で述べたとおり認定したうえで、本件家屋の所有者の主張を認め、所有者の請求を認容しました。なお、この第1審の判断は、控訴審、上告審でも維持されています。

大阪地判平成29年12月19日(抜粋)

…大阪市長は、本件評価要領の定める計算式(本数換算)に沿って、本件家屋…の直径60cmのPHC杭の総評点数算出に当たり、使用した杭の標準評点数と本数の積に8.64(本件補正)を乗じている…しかし、平成9年度評価基準及び本件評価要領は、増点補正率は最高限を示す旨を定めており…、本件評価要領が定めるPHC杭の増点補正率は5.0である…そうすると、本件補正(8.64)は評価基準が最高限として定める増点補正率の値(5.0)を上回る…以上のとおり、本数換算によって算出された本件補正は評価基準の定める増点補正率の値を上回るものであり、これを許容する根拠を見出すことはできないから、本件補正は評価基準の定める評価方法に反し、誤りであることは明らかである。

小括

 自治体は、評価要綱に基づいて自治体内に所在する多数の固定資産の評価を行っています。そのため、評価要綱に定める評価方法が固定資産評価基準に照らし不合理であった場合、その影響は非常に広範なものとなります。大阪市の本事案においても、大阪市のPHC杭の評価方法が固定資産評価基準に反するものとして違法と判断されたため、大阪市はこの評価方法で評価を行っていた家屋約5,000棟を対象に過去20年にわたって過大に徴収していた固定資産税相当額約42億円を納税者に返還することになりました(2022年4月22日付大阪市「固定資産(家屋)の既製杭の評価見直しにかかる減額相当分の還付・返還状況について」)。

 本事案で原告であった納税者に返還された金額はそこまで多額であったわけではありません。しかし、原告が費用と時間をかけて大阪市の判断を争ったことで原告以外の納税者も過去20年に遡ってその経済的損害の補填がなされました。この点でも本事案は実務上、大変意義あるものと評価できます。

まとめ

 今回解説をした事例②と事例③を踏まえると、納税者が自治体による固定資産の評価の適正性を検討する際は、「自治体の評価はその評価要綱に沿ったものかどうか」という点と「自治体の評価要綱は固定資産評価基準に照らし合理的なものかどうか」という点が着眼点になるといえます。そして、前者は個別の納税者に対する評価要綱の適用が問題となりますので、その適用が是正された場合でも個別事案の解決にとどまりますが、後者は評価要綱そのものが問題となりますので、仮に評価要綱が不合理とされれば、その評価要綱が適用される全事案が一体的に解決されます。

 次回は、自治体の固定資産の登録価格が違法となる事例④について解説します。

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