新型ウイルス等の感染症・疫病による契約の不履行・履行遅延の責任

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 当社はある製品を販売店に供給することを内容とする製造物供給契約(売買契約)を締結していましたが、新型ウイルス等の感染症・疫病の大流行によって、当該製品の一部の部品・資材が調達できず、製品を納期までに完成できない可能性が高い状況にあります。当社は、契約の相手である販売店に対して何らかの責任を負うのでしょうか。

 新型ウイルス等の感染症・疫病の大流行などの不可抗力によって、契約上の履行義務(製品の供給)を果たせなかった場合には、契約上の責任(債務不履行責任)を免れる可能性があります。もっとも、不可抗力の種類や程度その他の事情によって免責されるかどうかの結論は変わります。
 契約に不可抗力免責条項がある場合には、その対象にあたる限りは責任を免れる可能性がありますが、当該条項の規定の内容・表現等によっては免責されない場合もありますので注意が必要です。

解説

目次

  1. はじめに(近時の大災害(地震・台風等)・新型ウイルス等の感染症・疫病の多発)
  2. 不可抗力によって契約を履行できない場合の責任
    1. 不可抗力とはどのような場合をいうのか
    2. 不可抗力の事象による契約当事者の責任(現行民法が適用される契約)
    3. 不可抗力の事象による契約当事者の責任(改正民法が適用される契約)
  3. さいごに(感染症・疫病の大流行によるその他の問題点)
    ※本記事の凡例は以下のとおりです。
  • 改正民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正後の民法(2020年4月施行)
  • 現行民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正前の民法

はじめに(近時の大災害(地震・台風等)・新型ウイルス等の感染症・疫病の多発)

 近時は、東日本大震災をはじめとする大地震や巨大台風(これに伴う大洪水)、新型コロナウイルス(COVID-19)などの感染症など、これまでに見られなかったような災害などが数多く発生しており、これによって経済取引に著しい支障が生じる例が見られます。

 たとえば、2020年に入って大きな問題となっている新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大によって、納期までに製品を供給できない、マスクを販売店に納品できない、建物建築を完成できない、スポーツ大会・イベント等を開催できない、委託された業務を遂行できない、その他実際に様々な問題が生じています。

 当事者にはどうしようもない事象(大災害・感染症・疫病等)によって契約を履行できないような場合に、その責任を負わなければならないのでしょうか。
 以下においては、①不可抗力によって契約を履行できない場合(期限までに履行できない場合を含む)の契約当事者の責任について解説します。

 なお、本稿では、問題となる取引契約が日本法の適用を受ける場合を念頭に解説します。中国の契約法その他海外の法令が適用される場合には、当該外国法令の解釈が問題となりますので、ご留意ください。

不可抗力によって契約を履行できない場合の責任

不可抗力とはどのような場合をいうのか

 不可抗力とは、人の力による支配・統制を観念できない自然現象や社会現象をいい、たとえば、洪水、台風、地震、津波、地滑り、火災、伝染病、海難、戦争、大規模騒乱があげられます。

 不可抗力といえるかどうかは、「人の力による支配・統制を観念することができる事象(自然現象・社会現象)」か否か、「外部から生じた原因であり、かつ防止のために相当の注意をしても防止できない」か否か等によって判断するとされています(奥田昌道編「新版 注釈民法(10)Ⅱ 債権(1) 債権の目的・効力(2)」(有斐閣、2011)171頁等参照)。
 また、「不可抗力」であるかどうかは合理的に判断すべきものであり、当事者が合理的な根拠もなく恣意的に判断したとしても認められません。

(1)大地震のケース

 たとえば、東日本大震災のようなそれまでの専門的知見に照らしても予測しかねるほどの長時間の揺れを伴う特異な地震による場合は、不可抗力といえることが多いように思われます(以下の裁判例も参照)。

損害賠償請求事件(東京地裁平成26年10月8日判決・判例時報2247号44頁)
東日本大震災によって、分譲住宅地が液状化し住宅が傾くなどして生じた損害について、買主が売主らに対して不法行為による損害賠償責任を求めた事案

 本件地震の強度は気象庁震度階で5強ないし5弱で、地表最大加速度は150ないし200galとそれほど大きなものではなかったが、本件地震の継続時間が主要動だけでも1分程度、全体で2分程度と長く、約30分後に発生した余震も大きく、・・・本件地震はそれまでの専門的知見に照らしても予測しかねるほどの長時間の揺れを伴う特異な地震であったと判断された。
損害賠償請求事件(横浜地裁平成30年5月31日判決・判例秘書(控訴審:東京高裁令和1年11月7日判決))
東日本大震災及びその余震のため、音楽ホールの天井の仕上材の大部分が客席に崩落する被害を受けたとして、同ホールの建築主らに対して不法行為に基づく損害賠償請求を求めた事案

 全国における天井落下被害の原因は、長時間にわたる強い地震動という本件地震の特殊性によって天井部材の変形や損傷が想定外に進行したことなどによるものであることが指摘された。

(2)新型ウイルス等の感染症・疫病の大流行のケース

 近時大流行した感染症としては、これまでも死者数百名以上にもなったMERSコロナウイルスやSARSコロナウイルス、エボラ出血熱等による被害がありました。2020年に入り、新型コロナウイルス(COVID-19)の問題が日々大きく報道されておりますが、これまですでに世界での感染者数が約185万人、死者数が約11万人を超え、各国で非常事態宣言、都市封鎖がなされるなど深刻な状況となっています(2020年4月中旬時点)。
 こういった状況を踏まえて、新型コロナウイルス(COVID-19)を理由とする契約の不履行は、基本的に不可抗力と考えられるとの指摘もなされているところです。

(3)大地震や感染症・疫病の大流行でも不可抗力といえないケース

 もっとも、大地震や新型ウイルス等の感染症・疫病の大流行が起こったからといって、ただちにすべての契約について不可抗力といえるわけではありません。

 前述のとおり、不可抗力といえるかどうかは、人の力による支配・統制を観念することができる事象(自然現象・社会現象)か否か、外部から生じた原因であり、かつ防止のために相当の注意をしても防止できないか否か等によって判断されることになりますが、具体的には、その時点を基準として、契約上の義務の履行を断念することがやむを得ないといえるかどうかということが実質的に判断されることになります。この点については、契約の内容や、契約上の義務の内容・性質、履行ができない理由等について、個別の事案ごとに考える必要があります。

  たとえば、大地震や感染症・疫病の大流行によって、工場が機能しなくなったり製品の製造に必要な部材や資材を調達できなくなったことで製品の製造を完成できなくなってしまった場合や流通がストップしてしまった場合などにより、納期までに納品ができなかった場合には、不可抗力によるものであるといえる可能性が高くなると考えられます。

 これに対して、製品の製造に必要な部材や資材の費用が高騰したにとどまる場合や、製品の製造に必要な部材や資材を別の手段によって調達することができるような場合には、直ちに不可抗力といえるのかは問題となります。

 また、政府や自治体、その他国際機関等によって、広く経済活動等の制限が要請・指示・勧告されているような状況があれば、(要請・指示・勧告の内容や程度によるものの)不可抗力によるものであると判断される可能性が高くなると考えられます。

 なお、契約において納期までに履行ができない事情がある場合であっても、受注側元が履行をするために最大限の努力をしていれば、債務不履行責任を負わない場合があると判断した裁判例も参考となると考えられます(新潟地裁長岡支部平成12年3月30日判決・判タ1044号120頁)。

不可抗力の事象による契約当事者の責任(現行民法が適用される契約)

(1)受注側は契約不履行の責任が免責される可能性がある

 たとえば、製造物を供給する契約(製造物供給契約や売買契約)を締結したケースでは、売主(受注側)は、契約で規定された製品を決められた数量だけ決められた期限までに納入する義務を負います。納期までに納品できない場合には、売主(受注側)に帰責性があるといえれば、債務不履行責任(現行民法415条)を負うことになります。

 しかし、前述のとおり、感染症・疫病の大流行その他の理由により契約の履行が期限までになされなかったり、履行そのものができなくなった場合には、不可抗力として、売主(受注側)に帰責性はないことを理由に、債務不履行責任を負わない可能性があるということになります。

(2)受注側は代金や報酬を受け取ることができる可能性がある(危険負担の問題)

 現行民法では、契約当事者双方に帰責性なく契約上の義務(たとえば、製造物の供給義務等)を履行することが不能となった場合には、他方の当事者の契約上の義務(代金支払い義務等)も消滅するのが原則であるとされています(現行民法536条1項)。

 もっとも、引渡義務を負う目的物が特定物(たとえば、土地や中古物件、特注製品等など、その目的物に個性があるもの)である場合や、契約の目的物を具体的に特定している場合には、基本的には、他方の当事者の契約上の義務(代金支払い義務等)は消滅せず、履行する義務が存続するものとされています(現行民法534条1項)。

 なお、実務上は、取引契約書において、このような現行民法の原則を修正する内容の特約が付される場合も多いことから、注意すべきです。

(3)事情変更を理由に履行期限の延期等が認められる可能性がある

 裁判例においては、造船請負契約に関し、履行期前に起こった地震・津波(南海地震)により受注者側の工場の損傷、資材の流失、労務賃金や材料費の急騰など、契約時点において前提としていた事情が大きく変化した場合には、受注者側は一定の範囲で履行期限の延長や代金増額の申入れができ、注文者側がこれに応じない場合には事情変更を理由として契約の解除も認められる場合があると判断された例もあります(高松高裁昭和35年10月24日判決・下民集11巻10号2286頁)。

 もっとも、このような事情変更を理由とした契約内容の変更が認められることは必ずしも多くありません。

(4)受注側が履行義務(目的物の引渡義務等)を免れる可能性がある

① 履行の完成が不可能な場合

 なお、前述のとおり、製造物供給契約で引渡義務を負う目的物が特定物(たとえば、土地や中古物件、特注製品等など、その目的物に個性があるもの)である場合や、契約の目的物を具体的に特定している場合には、当該目的物が滅失してしまえば、契約上の履行をすることはできなくなるため、受注側は履行義務を免れることになります。

 また、建物建築を委託したところ、大型台風や感染症・疫病の大流行により、受注側の請負人が工期内に建物を完成できなかったというケースでは、工期延長しても完成できない場合(履行が不能となった場合)には、発注側は建物建築を完成するように求めることはできないことになります。 もっとも、これらの場合の責任については前述のとおりです。

② 履行の完成が可能な場合

 他方で、製造物供給契約で引渡義務を負う目的物が不特定物(たとえば、工場等で量産されている機械やマスクなどの製品)である場合には、当初予定していた工場での製造ができなくなってしまったとしても、代替製品を調達して発注側に引き渡すことができる限りは、基本的に履行する義務が存続するとも考えられます。

 また、建物建築を委託したところ、大型台風や感染症・疫病の大流行があったものの、工期を延長することなどにより受注側の請負人が建物建築の完成が可能な場合には、建物を完成させて引き渡す義務が存続する一方で、受注者側は報酬を支払う義務を負うという場合もあります。もっとも、この場合、建物の完成のために追加で必要となった費用をいずれが負担する必要があるのかという点は、問題となります。

不可抗力の事象による契約当事者の責任(改正民法が適用される契約)

 以下、2020年4月に施行となる改正民法が適用される契約の場合にはどのような取り扱いとなるかについても簡単に解説します。  

(1)受注側は契約不履行の責任が免責される可能性がある

 改正民法において、債務不履行があっても、「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるとき」は、損害賠償請求をすることはできないものとされます(改正民法415条1項ただし書)。

 なお、「債務者の責めに帰することができない事由によるものである」かどうか(債務者の帰責事由)については、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されることとなりますが、その考慮要素や判断基準については必ずしも明らかではありません。

 この点は、『民法改正(債権法改正)と不動産取引への影響 第2回 不動産売買契約の留意点(契約不適合責任)』および、井上治・猿倉健司『不動産業・建設業のための改正民法による実務対応-不動産売買・不動産賃貸借・工事請負・設計監理委任-』(清文社、2019)33頁を参照してください。

(2)受注側は代金や報酬を受け取ることができる可能性がある(危険負担の問題)

 改正民法においても、契約が成立した後に、当事者双方の帰責性なく引渡し目的物が滅失・毀損等してしまったことにより履行不能となった場合において、そのリスクを当事者のいずれが負担するか、つまり、相手方当事者の反対債務(代金債務)も消滅するか、反対債務が消滅することなく存続するかということが問題となります。

 改正民法においては、現行民法下の実務における運用と同様に、目的物の引渡しによってリスクの負担が受注側から発注側に移ることとされ、目的物の引渡し後に(当事者の帰責なく)滅失した場合には、発注側は責任追及や契約解除もできず、その一方で、請負代金を支払う義務を負うことになります(改正民法567条1項)。

 他方で、目的物の引渡し前に(当事者の帰責なく)滅失した場合には、他方当事者は代金支払いの履行を拒絶でき、契約解除することによりその履行を免れることができます(現行民法とは異なり、当然に代金の支払い義務が消滅するわけではないことに注意が必要です)。

 この点は、『民法改正(債権法改正)と不動産取引への影響 第2回 不動産売買契約の留意点(契約不適合責任)』および、井上治・猿倉健司『不動産業・建設業のための改正民法による実務対応-不動産売買・不動産賃貸借・工事請負・設計監理委任-』(清文社、2019年)195頁を参照してください。

さいごに(感染症・疫病の大流行によるその他の問題点)

 本稿では、感染症・疫病の大流行その他の不可抗力によって、契約を履行できない場合(期限までに履行できない場合を含む)の契約当事者の責任について解説しました。 しかしながら、不可抗力といえるかは不明確な点が多く、契約で不可抗力の場合の免責特約を規定することも有用です。この点については、『新型ウイルス等による感染症・疫病と不可抗力免責条項の適用範囲および注意点』もあわせて参照いただければと思います。

 なお、2020年に入って大きな問題となっている新型コロナウイルス(COVID-19)については、これにとどまらず、以下のような様々な問題が生じています。
 そのため、十分な検討が必要となります。

  • 感染症・疫病を理由とする株主総会開催の法的問題点(延期、開催時の注意点等)
  • 感染症・疫病を理由とする建設工事・設備工事の工期の延長、補償の実務的対応
  • 感染症を理由とする賃貸借契約上の問題(賃貸人・管理者の責任、賃料請求権の消滅、契約解除、営業補償等)
  • 役員・従業員・取引先等の関係者が感染症の「濃厚接触者」であると疑われる場合の対応
  • 感染症・疫病を理由とするリモートワークと労働法上の問題(業務命令、労働時間管理、休業手当、安全配慮義務等)
  • 感染症・疫病を理由とするプロスポーツ大会・イベント・コンサートの開催中止に伴う権利関係(関連契約の解除、払戻し義務、消費者契約法上の問題等)
<追記>
2020年4月13日:新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、記事の一部に加筆を行いました。
2020年4月20日:新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、記事末尾の囲み内の例示に加筆を行いました。

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