民法改正による消滅時効に関する変更点 「主観的起算点」とは

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細川 慈子弁護士 大江橋法律事務所

 改正民法によって、債権の消滅時効に関する規律が大きく変わったと聞きましたが、具体的にどのような規律が設けられたのでしょうか。

 改正民法では、債権の消滅時効について、旧民法になかった「主観的起算点」という概念が取り入れられるなど、大きく規律が変わりました。主な改正点は以下のとおりです。
 一般の債権については、各種の短期消滅時効を全廃し、旧民法の「権利を行使することができる時から10年間」という客観的起算点による消滅時効に加えて、新たに「権利を行使することができることを知った時から5年間」という主観的起算点による消滅時効が設けられました。
 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については、「不法行為の時から20年間」という客観的起算点による規律は、消滅時効と位置づけられました。
 他方、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については、債務不履行と不法行為のいずれによるものであっても、主観的起算点から5年間、客観的起算点から20年間に統一されました。
 また、旧民法の時効の「中断」「停止」という概念は、新しく「更新」「完成猶予」という概念に改められ、内容も見直されました。

解説

目次

  1. 一般の債権の消滅時効
  2. 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効
  3. 生命・身体侵害による損害賠償請求権の消滅時効
  4. 時効の完成猶予および更新

※本記事の凡例は以下のとおりです。

  • 改正民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正後の民法
  • 旧民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正前の民法
  • 旧商法:民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成29年法律第45号)に基づく改正前の商法

一般の債権の消滅時効

 改正民法は、一般の債権について、旧民法の「権利を行使することができる時から10年間」という客観的起算点による時効は維持したうえで(改正民法166条1項2号)、「権利を行使することができることを知った時から5年間」という主観的起算点による時効を新設しました(改正民法166条1項1号)。客観的起算点から10年と、主観的起算点から5年の、いずれか早いほうが到来した時点で消滅時効が完成します。

一般の債権の時効期間

一般の債権の時効期間

 また、期間がまちまちであった各種の短期消滅時効、すなわち、職業別各種債権、商事債権、定期給付債権の消滅時効(旧民法169条から174条、旧商法522条)は全廃され、上記の新たな枠組みに統一されたシンプルな制度になりました

 改正民法下の債権の時効管理は、新たに導入された「主観的起算点」を踏まえ、消滅時効が何年になるかを記録していく必要があります。ただ、取引上の債権については、債権者が、権利を行使することができる時がいつかを契約時点で知っているのが通常ですから、ほとんどの場合では客観的起算点と主観的起算点が一致します。したがって、基本的には取引上の債権は弁済期日(客観的起算点かつ主観的起算点)から5年間で消滅するという想定で管理を行うのがよいでしょう。

不法行為による損害賠償請求権の消滅時効

 旧民法724条後段の「不法行為の時から20年間」という客観的起算点による規律は、消滅時効ではなく除斥期間だと解されており、時効に関する総則の規定の適用がなく、中断や停止等(下記4参照)もできないことから、事案によっては、不法行為の被害者の救済が適切に図れないこともありました。
 そこで、改正民法は、旧民法の「損害及び加害者を知った時から3年間」という主観的起算点による時効は維持しつつ(改正民法724条柱書および1号)、「不法行為の時から20年間」という客観的起算点による規律は、消滅時効であることを明言しました(改正民法724条柱書および2号)

生命・身体侵害による損害賠償請求権の消滅時効

 改正民法は、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間について、上記1の時効期間(10年、5年)と上記2の時効期間(20年、3年)に対する特則を設け、債務不履行、不法行為のいずれによるものであっても、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間は、主観的起算点から5年間、客観的起算点から20年間に統一されました(改正民法167条、724条の2)


人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間

人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間

時効の完成猶予および更新

 旧民法の時効の完成の障害事由には、時効の「停止」と「中断」があり、「停止」事由が発生すると、時効の完成は猶予されます。また、「中断」事由が発生すると、時効は各事由が終了した時から新たにその進行を始めますが、中断事由が本来の目的を遂げずに終了した時は、中断の効果は生じないとされていました。
 しかし、「中断」という言葉からは、時効が完成しないだけではなく、それまでの時効期間がリセットされ、新たな時効が進行するという意味がわかりづらいため、改正民法は、新しく時効が進行することを「更新」と呼び、その前提となる、一定時点まで時効が完成しないようにする仕組みを、時効の「停止」の代わりに「完成猶予」と呼ぶことにしました。また、改正民法は、完成猶予事由ごとに、いつまで時効の完成が猶予されるのか、どんな場合に時効が更新されるのかを個別に定め、その内容も見直しました。

 改正民法が新設した時効の完成猶予事由としては、「協議を行う旨の合意」があげられます。これは、権利について協議を行う旨の合意が書面または電磁的記録でされたときは、以下の①から③のうちいずれか早い時までの間、時効の完成が猶予されるというものです(改正民法151条)。

  1. その合意があった時から1年を経過した時
  2. その合意において定められた協議期間(1年未満に限る)を経過した時
  3. どちらかが協議の続行を拒絶する旨の書面による通知をしたときは、その通知の時から6か月後を経過した時

 時効の完成猶予期間が通じて5年以下であれば、再度の合意をすることもできます(改正民法151条2項)。この「協議を行う旨の合意」は、時効の完成を阻止したいが、債務者が協議に応じているので強硬な手段はとりたくない、という債権者のニーズに応えるものといえます。

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編著等:安達 敏男、吉川 樹士、安重 洋介、濱田 卓
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<追記>
2020年4月2日:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行に伴い「現行民法」の記載を「旧民法」に改め、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成29年法律第45号)の施行に伴い「現行商法」の記載を「旧商法」に改めました。

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