米国、EUの競争法における垂直的制限

競争法・独占禁止法
菰口 高志弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 メーカーが流通業者との販売代理店契約等において商品の流通に関する制限を定めることがありますが、競争法上問題となることはありますか。アメリカとEUの規制について教えてください。

 上記制限は、一般に垂直的制限と呼ばれ、競争法上問題となり得ます。
 アメリカでは、シャーマン法1条が取引を制限する共同行為(契約、結合、共謀等)を規制しており、垂直的制限もその対象となります。原則として垂直的制限は、当然に違法ではなく、合理の原則によってその違法性が判断されます。
 EUでは、欧州機能条約101条1項が目的または効果において競争を制限する共同行為(事業者間協定、事業者団体の決定、協調的行為)を規制しており、垂直的制限もその対象となります。アメリカと異なり、一定の垂直的制限についてはセーフハーバーが定められていますので、実務的にはその適用の有無がまず問題となります。

解説

目次

  1. 流通過程における垂直的制限
  2. アメリカでの規制
  3. EUでの規制
  4. 最後に

流通過程における垂直的制限

 メーカーは、自社の商品をどのように流通させるかについて、色々な取組みを行うことがあります。流通業者に商品の流通を委ねる場合には、その流通業者に対し、流通に関する制限を定めることがあります。以下は、その典型例です。

  • 流通業者による販売価格に関する制限を定める場合(再販売価格制限
  • 流通業者ごとに販売地域を分割し、それぞれに独占的な販売権を与える場合(地域制限
  • 流通業者ごとに顧客をグループに分け、それぞれの顧客グループに関する独占的な販売権を与える場合(顧客制限
  • 正規販売事業者となるための要件を定め、それを満たす正規販売事業者に販売地域を割り振り、併せて、非正規販売事業者への販売を禁止する場合(選択的流通

 また最近では、流通業者によるオンラインでの販売について何らかの制限を設けるケースも見られます。
 これらの制限は、製造・流通の流れの中で互いに異なる取引段階を担う事業者間で行われる制限であり、垂直的制限(Vertical Restraint)と呼ばれます。垂直的制限は、ブランド間・ブランド内の競争の停止や、市場の閉鎖といった効果をもたらし得る側面があるため、競争法上問題となる場合があります。以下では、アメリカおよびEUについて、垂直的制限の諸類型に共通する規制の枠組みを説明します。

アメリカでの規制

(1)シャーマン法1条と合理の原則

 アメリカ連邦反トラスト法 1(アメリカでは、通常、競争法のことを「反トラスト法」と呼びます)においては、シャーマン法(the Sherman Act)1条が取引を制限する共同行為(契約、結合、共謀等)を規制しています。上記1で説明した垂直的制限も、このシャーマン法1条の規制対象となります。

 アメリカ連邦最高裁判所は、かつて、垂直的制限に関するいくつかの事案において、シャーマン法1条に照らして当然に違法である(per se illegal)という立場を採っていました。しかし、その立場を改め、同1条は不合理な取引制限のみを違法とするものであって、合理の原則(rule of reason)によって不合理か否かを判断すべきであるとしました(たとえば、最低再販売価格の制限について、Leegin Creative Leather Products, Inc. v. PSKS, Inc.を参照)。

 その結果、垂直的制限については原則として合理の原則が適用されるというのが一般的な理解となっており、最近の連邦最高裁判決でも、ほとんどすべての垂直的制限について合理の原則が適用されると述べたものが登場しています(Ohio v. American Express Co. )。

(2)検討手順

 この合理の原則の下では、垂直的制限によってもたらされる反競争的な効果の有無・程度を検討し、実質的な反競争効果が発生する場合にはそれを上回る競争促進効果(たとえば、小売段階における商品の高品質を保つべく、流通におけるルールを定め、ブランド間競争を促進する、といった効果です)があるか否か、より反競争的でない方法でそれが達成できないかを検討することになります。

 このような反競争効果と競争促進効果の比較衡量による判断は、上記1で例示したような制限の種類ごとにただちに結論が決まるものではなく、個別の事案ごとになされます。また、後述するEUでの規制とは異なり、アメリカの競争当局は、現在、違反とならない類型を明確にした指針等(たとえば、「当事者について一定の市場シェアを超えなければ、当該当事者間の垂直的制限について反競争効果がないものとみなす」といった基準を設ける、セーフハーバーと呼ばれる方法です)を公開していませんので、その意味でも個別の事案ごとの検討が必要となります。

EUでの規制

(1)欧州機能条約101条1項

 EU競争法 2 においては、欧州機能条約(Treaty on the Functioning of European Union、以下、「TFEU」といいます)101条1項が目的または効果において競争を制限する共同行為(事業者間協定、事業者団体の決定、協調的行為)を規制しています。垂直的制限もこの規制対象に含まれます。

(2)セーフハーバー、適用免除

 EU競争法においては、市場シェアや垂直的制限の種類を指標として、欧州委員会がTFEU101条1項違反としない類型(先述のセーフハーバーです)を明らかにしており、実務上、その理解が重要です。
 そもそもEU法においては、市場への影響が感知し得ない(not appreciable)行為はTFEU101条1項に該当しないと解されています 3。また、TFEU101条1項の要件に該当する垂直的制限であっても、以下の2通りのルートで適用免除が認められます。

  1. 欧州委員会が定めた垂直的協定適用免除規則 4 による一括適用免除 5
  2. TFEU101条3項が規定する要件に従って審理される個別適用免除

 ①の垂直的協定適用免除規則は、欧州委員会が定めたセーフハーバーの一種であり、「一定の垂直的制限に関し、それがもたらすであろう競争促進効果をも加味して、TFEU101条1項の適用免除を認める」という考え方を明らかにしたものです。
 概して言えば、共同行為の当事者の市場シェアがそれぞれ30%以内であり、ハードコア制限が含まれず、一定の免除対象外要件に該当しないことを適用免除の要件としています。
 実務的には、同規則の要件を満たすことさえ確認できればその他の競争への影響等を検討するまでもなく一括して適用免除対象として扱うことができるため、このセーフハーバーの適用の有無がきわめて重要となります。なお、このセーフハーバーの対象から除外されるハードコア制限は、垂直的協定適用免除規則4条に定められており、一例として、最低再販売価格制限(再販売価格の下限を拘束する制限)がこれに該当します。

 次に、①による一括適用免除が認められない場合でも、ただちにTFEU101条1項違反となるわけではなく、②による個別の事情に基づいた適用免除が認められる余地があります。すなわち、TFEU101条3項は、以下のすべてが認められれば、欧州委員会がTFEU101条1項の不適用を宣言することができると規定しています。

  • 商品の生産・流通の改善または技術的・経済的進歩の促進に貢献すること
  • 共同行為の結果として生じる便益を消費者に対して公正に分け与えるものであること
  • 共同行為の目的を達するうえで必要不可欠ではない制限を課すものではないこと
  • 共同行為の当事者に対し、当該商品の実質的部分に関する競争を排除する余地を与えるものでないこと

(3)検討手順

 欧州委員会は、以上の規制枠組みを前提に、一般に以下の4ステップの検討が必要となるとしています 6。①と②がセーフハーバーの基準を検討するもの、③と④が原則通りにTFEU101条1項・3項を検討するものです。

  1. 供給者・購入者それぞれの市場シェアを確認
  2. 上記①の市場シェアがいずれも30%を超えない場合、一括適用免除の対象として検討(ただし、前提として、一括適用免除規則のその他の要件を満たす必要あり)
  3. 上記①の市場シェアのいずれかが30%を超える場合、一括適用免除規則の対象でないため、TFEU101条1項該当性を検討
  4. 上記③においてTFEU101条1項に該当する場合、TFEU101条3項による適用免除を検討

 また、欧州委員会は、各種の垂直的制限に対する規制の指針として「垂直的制限ガイドライン 7」を明らかにしており、実際にEU競争法における検討を行う際には同ガイドラインを参考にすることが非常に有用です。

最後に

 上記を踏まえてアメリカ連邦反トラスト法とEU競争法を比較すると、下表のとおり垂直的制限の判断枠組みに大きな違いがあることがわかります。製造・流通の分野でグローバルに事業を展開する場合には、経営戦略の立案にあたって、以上のポイントを理解しておくことが肝要です。
 なお、本稿に続く記事では、いくつか具体的な類型を採り上げ、EUでの規制をもう少し詳しく検討する予定です。

アメリカ連邦反トラスト法とEU競争法比較


  1. アメリカでは、連邦法のほか、州の反トラスト法があります。本解説では連邦法の規制について説明しますが、各州の州法はそれぞれ内容が異なり、また、州法が連邦法とは異なる規制を設けている場合があるため、実際には州法について別途の検討が必要です。 ↩︎

  2. EUにおいても、EU(欧州連合)と加盟国のそれぞれに競争法の規制があります。EUの各加盟国の国内競争法は、EU法とは異なるルールを有していることがありますので、実際の事案の検討においては、関連する各加盟国の競争法について別途の検討が必要です。 ↩︎

  3. 欧州委員会は、「市場への影響が感知し得ない行為」と考えられる類型を例示しています。その1つがデミニマス(De Minimis)告示です(Notice on agreements of minor importance which do not appreciably restrict competition under Article 101(1)of the Treaty on the Functioning of the European Union (De Minimis Notice) 2014/C 291/01)。互いに競争関係にない当事者間での垂直的制限については、市場シェアがそれぞれ15%を超えない場合、ハードコア制限ではなく、かつ、他事業者の競争制限とあいまって累積的効果が生じない限り、TFEU101条1項に該当しないものと扱っています。2つ目は、垂直的制限ガイドラインです。中小企業の要件を満たす事業者間の垂直的制限も、ハードコア制限の場合や累積的効果がある場合を除き、原則としてTFEU101条1項に該当しないものと扱っています(Guidelines on Vertical Restraints (Text with EEA relevance) OJ 2010/C 130/01, (11))。 ↩︎

  4. Commission Regulation(EU)No 330/2010 of 20 April 2010 on the application of Article 101(3)of the Treaty on the Functioning of the European Union to categories of vertical agreements and concerted practices(Text with EEA relevance)OJ 2010/L 102/1 ↩︎

  5. なお、自動車分野に関する一括適用免除等のように、垂直的協定適用免除規則とは別の規則が適用される場合もあり、その場合には該当する規則を確認する必要があります。 ↩︎

  6. 前掲3・Guidelines on vertical restraints,(110) ↩︎

  7. 前掲3・Guidelines on vertical restraints ↩︎

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