債務不履行による損害賠償請求および解除権に関する民法改正の内容と取引基本契約書の見直し

取引・契約・債権回収 公開 更新
田中 宏岳弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 改正民法では、債務不履行による損害賠償請求および解除権について、どのような点が改正されたのでしょうか。改正された点に関し、当社の仕入先との取引基本契約書の条項を見直す必要がありますか。

 債務不履行による損害賠償請求については、履行不能の概念や帰責事由不存在の抗弁等従来の裁判実務等を明確にした改正がなされています。債務不履行による契約解除については、債務者の帰責事由を要件としないこと等法的構成そのものを変える改正がなされており、取引基本契約書上の解除条項と矛盾がないか確認する必要性が相対的に高いと考えられます。

解説

目次

  1. 債務不履行による損害賠償請求の改正概要
    1. 履行不能概念の明文化等
    2. 帰責事由不存在抗弁の明文化
    3. 実務上の留意点
  2. 債務不履行による契約解除の改正概要
    1. 解除に債務者の帰責事由は不要
    2. 催告解除における軽微性の抗弁
    3. 実務上の留意点

※本記事の凡例は以下のとおりです。

  • 改正民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正後の民法
  • 旧民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正前の民法

※※債務不履行による損害賠償・契約解除にかかる改正点は他にもありますが、本稿では主な点のみを解説いたします。

債務不履行による損害賠償請求の改正概要

履行不能概念の明文化等

 旧民法においては、債務の履行が不能である場合(履行不能)に、債権者が履行を請求できるか否か、また履行不能とは具体的にどのように判断されるかにつき規定を置いていませんでした。

 改正民法においては、この点につき、履行不能の場合に債権者がその債務の履行を請求できないことを明文化するとともに、履行不能とは、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能である」と判断される場合であることを明記しました(改正民法412条の2第1項)。この改正は、従来からの履行不能に関する解釈を直接変えるものではありませんが、履行不能を抽象的に捉えるのではなく、債務の発生原因である契約内容や目的、取引上の社会通念に照らして個別具体的に判断されることを明記した点に、意義があるものと思われます。

 また、従来、契約の成立前から債務の履行が不能である、いわゆる原始的不能の場合には、契約は無効であり、損害賠償の対象は信頼利益(契約が有効であると信じて費やした費用)のみであると理解されていましたが、改正民法では、原始的不能であっても、契約が有効であることを前提に、履行利益(本来の履行がなされたとすれば得られたであろう利益)の損害賠償が認められる旨が規定されました(改正民法412条の2第2項)。

帰責事由不存在抗弁の明文化

 改正民法では、以下のとおり、履行不能の場合に損害賠償請求ができることと併せて、「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない」場合には、損害賠償請求ができないことが明確化されました。

旧民法415条 改正民法415条1項
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 従来から、債務者の責めに帰すべき事由は、損害賠償請求を受ける債務者側での主張立証事項であると解されてきましたが、条文上明確ではありませんでした。改正民法は、この主張立証責任の所在を明らかにしたことに、第一の意義があります。また、何が「債務者の責めに帰すべき事由」といえるかについても従来争いがあったところ、改正民法は、契約等の内容、目的や取引上の社会通念に照らして帰責事由を判断するという、裁判実務を明文化した点にも意義があります。

実務上の留意点

 事業者間の仕入取引においては、取引基本契約書が締結されることが通常であり、当該基本契約書に定めがある事項については、原則として当該契約条項に従った処理がなされます。改正民法の改正点の多くも任意規定であり、このことは、改正民法の施行後も変わりがありません。

 もっとも、取引基本契約書に定めがない事項や各条項の解釈にあたっては改正民法が適用されることになります。買主の立場からすれば、原始的不能の場合の履行利益の賠償請求等、改正民法を適用した方が理論的には従来より有利になりますので、取引基本契約書の条項がこれらの手段を制限していないかという観点からチェックするべきといえます。

債務不履行による契約解除の改正概要

解除に債務者の帰責事由は不要

 旧民法では、履行遅滞であれ履行不能であれ、債務不履行による解除を行うには、損害賠償請求同様、債務者の帰責事由が必要とされていました(旧民法543条参照)。

 この点、改正民法は、契約解除を帰責事由のある債務者に対する制裁ではなく、債権者を契約の拘束力から解放するための制度として捉えているため、債務者に帰責事由がない場合でも債権者に契約解除を認めました。代わりに、債務の不履行につき債権者に帰責事由がある場合には、契約解除ができないことが明記されました(改正民法543条)。

催告解除における軽微性の抗弁

 改正民法では、債務不履行による契約解除を、催告解除(改正民法541条)、無催告解除(改正民法542条)の2つに整理し、それぞれの要件を定めました。そして、催告解除においては、従来からの催告解除の要件(①履行期の経過、②履行の催告、③催告後相当期間の経過)を維持したうえで、「その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微である」(軽微性の抗弁)ことを解除権に対する抗弁事由として定めました

 どのような事由があれば、軽微な不履行といえるかは今後の事例の集積によることになると思われますが、本来的な債務ではない付随的な債務の不履行に過ぎない場合には、この軽微性の抗弁が成立する可能性があるものと考えられます。

実務上の留意点

 取引基本契約書上、契約違反があった場合には、通知催告のうえ、一定期間経過後に解除できる等の条項があることが珍しくありません。改正民法の下では、このような条項がある場合でも、不履行の程度が軽微である場合には、解除権の行使が制限され得るように思われますので、注意が必要です。

 また、改正民法により、売主に帰責事由がなくとも広く買主の契約解除が認められるようになりました。たとえば、取引基本契約書に「正当な理由なく納期に商品を納入しないとき」といった解除条項がある場合、「正当な理由なく」という要件がある点で、改正民法下で認められている契約解除権よりも買主に不利になっていると考えられますので、今一度全体的な見直しが必要ではないかと思われます。もっとも、実際に条項を修正する必要があるか否かは、取引基本契約書において、貴社に任意の中途解約権が認められているか否かも含めて全体的な考察が必要でしょう。

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<追記>
2020年4月2日:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行に伴い「現行民法」の記載を「旧民法」に改めました。

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