休職中の労働者への賃金と社会保険料の支払い

人事労務
小島 彰社労士 こじまあきら社会保険労務士事務所

 休職中の労働者に賃金を支払わなければならないのでしょうか。社会保険料はどうなるのでしょうか。

 「ノーワーク・ノーペイの原則」により、従業員の休職期間中は賃金を無給とするケースが一般的です。しかし、有給とするか無給とするかは、個々の休職のケースや企業によって異なります。また、健康保険料などの社会保険料のうち、企業は少なくとも会社負担分については、支払わなければなりません。

解説

目次

  1. ノーワーク・ノーペイの原則
  2. 私傷病休職時の賃金と傷病手当金
  3. 休職中の社会保険料は負担する必要がある
  4. 休職後の取扱いはどうなる

ノーワーク・ノーペイの原則

 休職中も労動契約関係は解消されずに存続しているため、就業規則は原則として適用されることになります。ただ、休職中は労務の提供はなく、休職事由も使用者に帰責事由があるわけではありません。そのため、一般的には「ノーワーク・ノーペイの原則」によって休職期間中の賃金を無給とするケースが多いようです。

 しかし、有給とするか無給とするか、休職期間を勤続年数に算入するかどうかは、個々の休職のケースや企業によって違ってきます。

私傷病休職時の賃金と傷病手当金

 私傷病休職の場合、本人には、休業4日目より健康保険から1日あたり標準報酬日額の3分の2の傷病手当金が支払われることになります。ここで注意しなければならないのは、傷病手当金と会社から支給される賃金との兼ね合いです。私傷病休職中の期間について会社が1日あたり標準報酬日額の3分の2以上の賃金を支給した場合は、傷病手当金は不支給となりますが、会社が支払った賃金が3分の2に満たない場合にはその差額が支給されることになります。たとえば、会社側が休職中の生活を配慮し、標準報酬日額の半分の賃金を支給した場合、3分の2との差額である標準報酬日額の6分の1だけが傷病手当金として支給されます。同様に3分の1の賃金を支給した場合は、傷病手当金として標準報酬日額の3分の1が支給されます。つまり、会社から支給される賃金が標準報酬日額の3分の2未満である場合、結果的に本人の受け取る総額はほぼ変わりません。

傷病手当金の支給金額

傷病手当金の支給金額

傷病手当金の支給期間

傷病手当金の支給期間

休職中の社会保険料は負担する必要がある

 休職は、就業規則や労働協約などに基づき、使用者が一方的意思表示により、休職命令として発令するのが一般的です。どのような場合に休職命令を発令できるかは、個々の企業で異なりますが、休職期間満了時に休職事由が消滅していない場合は、就業規則の規定に基づき自然退職として扱う企業が多いようです。そのため、労働者が私傷病休職をした場合、どの程度回復していれば、自然退職などの効果が発生しないかが問題になります。

 裁判例では、休職期間満了時に、休職前と同一の職務をこなせる程度まで回復していることまでは要求していません。つまり、休職期間満了後から一定の期間の間に治癒する見込みがあればよく、むしろ会社は、休職前の職務よりも軽度な職務に就かせることが可能な場合には、労働者が治癒するまでの間、軽度な業務を担当する部署などに配置する義務を負うという立場をとっています。

ただし、これは就業規則で自然退職にすると定めている場合に当てはまるのであって、解雇すると定めている場合は、解雇の要件に該当していることが必要です。労働者が回復する可能性があるのに解雇を行うと、解雇権濫用と判断されます。そのため、私傷病休職は、解雇猶予を目的とした制度などといわれています。

 休職中は、無給であっても問題はありませんが、健康保険料などの社会保険料のうち、少なくとも会社負担分については、支払わなければなりません。なお、保険料額も休職前の標準報酬月額に基づいて支払わなければならず、会社にとって負担となることも事実です。そのため、休職期間を決めるにあたっては、これらも配慮して現実的な期間を設定する必要があります。また、社会保険料の労働者負担分についても、事前に取り決めておかなければ、場合によっては会社が立て替えなければならないおそれもありますので、注意が必要です。

休職後の取扱いはどうなる

 休職期間中に休職事由がなくなれば、休職は終了して職場復帰となります。また、休職期間が満了したときも職場復帰となります。いずれの場合も会社は理由なく復職を拒むことはできません。この場合、たとえば「会社が指定した医師の診断を受ける必要がある」という規定を就業規則に明記し、その診断書を参考に会社が復職の可否について判断をすることは認められます。

 復職をめぐっては労使間のトラブルが多いことから、休職事由消滅の際の取扱い、休職期間満了後の取扱い(復職手続き、休職期間の延長、退職、解雇など)については、就業規則などで明確にしておくことが望ましいといえます。最近では、特に「うつ病」などメンタルヘルス疾患の労働者の私傷病休職について考慮した規定が必要になってきています。同一または類似傷病については、休職の利用は1回限りにすることなどの制限をつけたり、復職を支援するプログラムを整備することも考えられます。

©小島彰 本記事は、小島彰監修「事業者必携 入門図解 働き方改革法に対応! 会社で使う 労働時間・休日・休暇・休職・休業の法律と書式」(三修社、2019年)の内容を転載したものです。
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