固定残業手当を導入するメリットとは

人事労務
小島 彰社労士 こじまあきら社会保険労務士事務所

 固定残業手当とはどのようなものですか。また、導入するメリットについて教えてください。

 残業の有無にかかわらず、固定給に含めて支払われる毎月定額の賃金を固定残業手当といいます。固定残業代の導入メリットには従業員間の不公平感の解消や、給与計算の手間の削減などがあげられます。固定残業手当を適法に行うためには、基本給と固定残業手当の明確な区分などの要件を満たさなければならないほか、就業規則を変更し、従業員に周知する必要があります。

解説

目次

  1. 固定残業手当とは何か
  2. なぜこのような手当を設けるのか
  3. 職種によってはなじまない
  4. どのくらいが目安なのか

固定残業手当とは何か

 従業員に時間外労働をさせた場合、給与計算期間ごとに集計して割増賃金を支払うことが必要です。

 一方、残業手当を固定給に含め、残業の有無にかかわらず、毎月定額を固定残業手当として支払う会社も少なくありません。このような固定額による残業代の支払いを適法に行うには、①基本給と固定残業手当を明確に区分する、②固定残業手当は何時間分の残業時間を含むのかを明確にする、③固定残業手当に含まれる残業時間を超過した場合は別途割増賃金を支給する、という3つの要件をすべて満たす必要があります。

 その上で、事業場の就業規則(賃金規程)を変更しなければなりません。変更した就業規則を従業員に周知することも必要で、固定残業手当の導入には、支給の経緯、実態から見て「定額手当=残業代」と判断できなければなりません。就業規則においては、具体的に固定残業代の金額や固定残業代の対象になる労働時間を明記しなくても、固定残業代を採用する上では問題ありません。しかし、対象になる残業時間をあまりにも長時間に設定してしまうと、これは結局長時間労働の問題を引き起こすきっかけになりかねませんので、会社側は、過度な長時間労働にならないように注意しながら、固定残業に相当する残業時間を設定しなければなりません。

 これに対して、雇用契約書や賃金を支給する際に交付する給与明細書などには、より具体的な記載が求められます。特に、固定残業手当を採用している会社が、新たな従業員を雇用する場面においては、雇用契約書の中で、支払われる賃金の内訳として、どの程度の残業時間が固定残業代として支払われることになるのかを、明確に説明する必要があります。

 基本給と割増賃金部分の区分は、従業員が本来支給されるはずの残業代が適正に支払われているかを確認するために重要になります。従業員に支払った固定残業手当が実際の残業時間で計算した残業代を明確に下回ると判断された場合には、その差額の支払いを請求されるトラブルも予想されるので注意が必要です。

なぜこのような手当を設けるのか

 固定残業手当の導入による一般的なメリットとしては、不公平感の解消です。同じ仕事を残業なしでこなす従業員Aと、残業を10時間してこなす従業員Bとの間では、通常の残業手当の考え方だとAにとって不公平に感じられますが、固定残業手当では公平感があります。また、固定残業時間以内であれば、実際に残業が発生しても追加の人件費が発生しないため、年間の人件費のおおまかな見積りが可能なこともメリットとなります。

 企業側にとっては、固定残業手当を導入することで、給与計算の手間が大幅に削減されます。その一方で、実際に従うべきルールが複雑であることも事実です。したがって、会社が固定残業代を採用する場合には、弁護士や社会保険労務士など専門家の意見を聴きながら、適法性を確保できる方法の下で実施すべきだといえます。

 従業員の立場からすると、残業してもしなくても基本的には同じ給与ですから、効率的に仕事をして残業を削減しようとするでしょう。なぜならば、従事している業務を短時間で終了することができれば、残業代は固定されていますので、それを時間給に引き直してみると、労働時間単価が上がるため、従業員が効率的に業務を処理しようというモチベーションを持ちやすくなるからです。これは長時間労働の抑制につながるので、企業側にもメリットとなり得ます。

職種によってはなじまない

 固定残業手当は、あらゆる業種・職種に適用できるとは限りません。

 たとえば、小売店や飲食店では、営業時間がほぼ同じで、開店準備や閉店業務にかかる時間も大きな変動がありません。つまり、毎日ある程度一定の労働時間となります。このような業種では、固定残業手当を導入しやすいといえます。また、営業職の場合も、日中のクライアント訪問、帰社後の残業による提案書の作成など、毎日ほぼ同じ労働時間が見込まれるならば、固定残業手当を導入しやすいといえるでしょう。

 一方、生産ラインが確立されている製造業や、一般的な事務作業の場合、業務量の増減は各従業員の裁量では行えません。このような業種では、固定残業手当を導入するより、実際に残業した時間に対し、その都度計算された残業手当を支払う方が、従業員のモチベーションにつながります。

どのくらいが目安なのか

 労働基準法では、時間外労働・休日労働を行わせるためには、三六協定を締結することが必要です。三六協定で設定できる時間外労働の限度時間は、1か月あたり45時間、1年あたり360時間です。

 そうなると必然的に1年あたりの限度時間の12分の1、つまり月30時間分の残業代が固定残業手当の上限となると考えられます。もちろん、実際にそれほど残業していない場合はもっと少なくなります。

 固定残業手当は「これさえ支払っていれば、もう残業代(時間外手当)が不要となる」という便利手当ではありません。想定する残業時間を超えた場合は、別途残業代を支払わなければなりません。逆に残業がなかったからといって、固定残業手当を支払わないとすることは許されません。このことは、実際に労働者が行った残業時間が固定残業代に相当する残業時間に比べて少なかった場合も同じです。ムダな残業手当を支払わないという意味でも、固定残業手当として支払う金額は、今までの平均残業時間をベースに検討するのが得策です。

 一方、固定残業手当で想定した残業時間を超過した場合は、その分について別途残業手当を支払わないといけませんが、実務上この給与計算が煩雑で対応しきれない会社もあります。その場合は、残業時間を法的上限となる30時間に設定するなど、その残業時間に収まるようにした方がよいでしょう。

 なお、固定残業手当を採用する会社においては、賃金を支払う場面においても、注意しなければならない点があります。固定残業代を含めた賃金を支払っている場合、形式上は最低賃金を超えた金額を労働者に支払っているように見えたとしても、固定残業手当にあたる部分を除くと、実際には基本給の部分が最低賃金を下回っているというケースがあります。

 このような賃金の支払方法は認められませんので、あくまでも固定残業手当を除いた基本給の部分の金額が、最低賃金を上回っていなければなりません。

残業手当込みの賃金の支払い

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©小島彰 本記事は、小島彰監修「事業者必携 入門図解 働き方改革法に対応! 会社で使う 労働時間・休日・休暇・休職・休業の法律と書式」(三修社、2019年)の内容を転載したものです。
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