残業手当の計算方法を間違ってトラブルになってしまう場合について
人事労務 当社の所定勤務時間は、始業8時、終業17時、昼休憩が1時間の1日8時間です。変形労働時間制は採用していません。
ある社員が、午後に半休を取得したのですが、その代わりということで、翌日は、所定勤務時間に加えて、17時から21時まで4時間多く働いたので、給与計算では「相殺すると0時間」と考えて計算しました。
しかし、その後、社員から4時間分は残業手当を支給すべきだ、と指摘されトラブルになりました。どのように計算すべきなのでしょうか。
変形労働時間制などが無い場合は、午後を休んだ日の4時間分を欠勤控除し、所定時間(1日8時間)より4時間多く働いた日は、通常残業の2割5分増しの計算をします。
(残業単価×4時間) × 1.0 + (残業単価×4時間) x 1.25
という計算になります。差し引きすると
(残業単価×4時間) × 0.25
となります。
つまり単純に「4時間分を相殺するだけ」では不足することになり、「0.25」の割増分を支給しなければならないということです。この差額を、別途に支払うか、翌月の給与計算で加算するなど、速やかに支払わなければなりません。
解説
目次
労務の提供の無い場合の「欠勤控除」と、時間外労働の「割増手当」の原則
ノーワーク・ノーペイの原則
労働基準の原則のひとつに「ノーワーク・ノーペイの原則」があります。「労働者の責任である」もしくは「労働者と使用者のどちらの責任でもない」場合において、労務の提供が無い日や時間に関しては、会社には賃金を支払う義務は生じないという原則です。
したがって「遅刻」「早退」などで労務の提供が無い場合は、賃金の支払い義務はありませんので、その時間は「欠勤控除」することが出来ます。
労働時間の原則
一方で、労働時間の原則は、変形労働時間制を導入している場合を除き、週40時間、1日8時間と定められています(労働基準法32条)。また、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないと定められています(労働基準法35条)。
労働時間については、「従業員は何時間働かせることができるのか(労働時間に関する法規制)」もあわせてご覧ください。
割増賃金の支払い
使用者が労働者に対し、1-2 の定めを超えて、法定の時間外労働や休日労働をさせた場合には、通常の労働時間の賃金の2割5分以上、5割以下の範囲内の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条1項)。
割増率は、時間外労働については2割5分、休日労働については3割5分と定められています(平成6年1月4日政令第5号「労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令」)。
深夜労働の割増率
また、午後10時から午前5時までの間に労働をさせた場合には、通常の労働時間の賃金の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払う必要があります(労働基準法37条4項)。
特別の割増率(中小企業には当分の間は適用されない)
1か月の時間外労働が60時間を超えた場合は、その超えた時間分は、通常の賃金の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条1項ただし書)。
この、60時間を超えた時間外労働の割増率は、平成20年の労働基準法改正によって設けられました。
当分の間は中小企業には適用されない予定でしたが、「厚生労働省 労働基準法等の一部を改正する法律案要綱のポイント 」によれば、平成31年に廃止という方針も示されており、今国会の動きに注意が必要です。
割増手当の原則型と重複パターン
割増手当の計算は、実際の労働時間によって重複して計算することが必要になることもあります。
以下に、原則の場合と、各要件が重複した場合の時間外労働の割増率をまとめています。
原則 | 時間外労働(法定8時間を超える労働) | 2割5分以上 |
---|---|---|
深夜労働(午後10時~午前5時) | 2割5分以上 | |
休日労働(法定4週4日の休日の労働) | 3割5分以上 | |
重複パターン | 時間外労働と深夜労働の重複 | 5割以上 |
休日労働と深夜労働の重複 | 6割以上 | |
休日労働と時間外労働の重複 | 3割5分以上 |
まとめ
- 賃金計算期間中に「遅刻」「早退」と「時間外労働」の時間を単純に相殺してはならない
- 賃金計算期間中に「遅刻」「早退」があれば、その日は「欠勤控除」し、他日に時間外労働があれば「時間外割増率」を加えて計算することが必要
