メキシコ競争法の解説

第3回 メキシコの企業結合規制

国際取引・海外進出
西山 洋祐弁護士 アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業

目次

  1. はじめに
  2. 規制対象
    1. 規制対象行為
    2. 例外
  3. 届出手続および審査
    1. 当局
    2. 届出
    3. 審査
    4. 速やかな審査
  4. 調査および制裁
    1. 調査
    2. 制裁

はじめに

 メキシコにもいわゆる企業結合規制が存在し、連邦経済競争法において企業結合も規制されている。すなわち、連邦経済競争法は、競業他社や供給者等との間の合併や買収等を「集中(Concentración)」であると定め、調査や制裁の対象となりうるとすることで、いわゆる企業結合規制をしている 1。目的または効果が競争制限的である集中は「違法な集中(Concentraciones Ilícitas)」であり、調査および制裁の対象となる 2

 一方、事前に連邦経済競争委員会の審査を受け、承認された集中は原則として調査の対象とならないとされている 3 。連邦経済競争法は、かかる審査および承認の手続を定めており 4 、また例外的に審査および承認が不要とされる場合についても定めている 5

 以上より必要に応じて適切に集中の届出をし、審査を受け、承認を得ることが重要である。そこで、本稿では、届出が必要となる集中、届出および審査の流れ、集中に対する調査と制裁等を解説する。

規制対象

規制対象行為

 上記 1 のとおり、連邦経済競争法上の企業結合規制の対象となるのは、「集中(Concentración)」である 6。連邦経済競争法上、「集中」は、「事業者間(競争者間であるか否か等を問わない)における合併、支配権の取得、または会社、株式、持分もしくは資産等を結合させる行為」と定義されている 7。すなわち、「集中」の定義は極めて広範である。もっとも、すべての集中について承認が必要とされるわけではなく、以下のいずれかに該当する集中について実行前に承認を得ることが必要とされている 8

I.  メキシコにおける取引額が1,800万 UMA 9(約95億円)を超えるもの

II. 年間売上高または資産が1,800万 UMA(約95億円)を超える額である事業者の資産または株式の35%以上の取得等

III. 2以上の事業者の年間売上高または資産が個別にまたは合計して4,800万 UMA(約255億円)を超える額である場合における、かかる2以上の事業者による840万 UMA(約45億円)を超える額の資産または株式等の国内での取得等

 上記 I.の「取引額」は、原則として集中の当事者間が定めた額である 10。「メキシコにおける取引」については、メキシコ国外に所在する者同士による取引も該当しうるものの、取得の対象となる資産がメキシコ国内に所在するか、取得の対象となる株式等がメキシコ法人のものであることが必要である 11

 上記 II.および III.に記載の事業者の「年間売上高または資産」については、年間売上高はメキシコで発生したものが考慮され、資産はメキシコに所在するものが考慮される 12

例外

 連邦経済競争法は届出を不要とする例外を設けており、具体的には、同一グループに属する事業者間における企業再編の場合、ある法人の支配権をその設立以来有している事業者による当該法人の株式等の追加取得の場合、メキシコ法人の支配権またはメキシコ国内の資産等の取得を伴わない一定の国外取引などの場合には、上記2-1に記載の条件に該当する集中であっても届出が不要となる 13。これらの例外については連邦経済競争委員会の企業結合ガイドラインにおいて解説されている 14

届出手続および審査

当局

 届出を受理し審査を担当する当局は原則として連邦経済競争委員会である 15 が、放送・電気通信分野に関しては連邦通信機構が担当する 16。いずれも企業結合ガイドラインを出している 17

届出

 届出が必要な場合、届出は、原則として、対象となる集中に関与する事業者によりなされる必要がある 18。届出は文書でなされる必要があり、法定の事項を記載し、法定の文書を添付する必要がある 19。要記載事項はたとえば、届出者である事業者の名称、集中に直接または間接に関与する者の名称、集中の内容、集中に関与する事業者の工場または事業所の所在地、主要な流通拠点の所在地および集中に関与する事業者との関係、集中に関与する事業者が提供する主な商品またはサービス、市場シェア等であり、要添付書類はたとえば、集中の目的等を説明する文書、定款、直前の会計年度の財務諸表等である 20。これらの要記載事項および要添付書類についてはガイドラインで詳しく説明されている 21

 届出がなされたものの法定の事項または法定の文書に漏れがある場合には、連邦経済競争委員会は、届出日の翌営業日から10営業日以内に、事業者に対し、不足する情報等を提出するよう請求する 22。事業者は原則としてかかる請求の効力発生日の翌営業日から10営業日以内に不足する情報等を提出しなければならない 23。もっとも、事業者は正当な理由がある場合、請求により提出のための期間を延長することができる 24(下記の図1)。

図1 90条1号に基づく不足情報等提出請求および提出の流れ

図1 90条1号に基づく不足情報等提出請求および提出の流れ

 また、連邦経済競争委員会は、原則として届出受領日から15営業日以内に、追加の情報または文書を請求することができ、事業者は請求の効力発生日の翌営業日から15営業日以内に追加の情報または文書を提出しなければならない 25。事業者は正当な理由がある場合、請求により提出のための期間を延長することができる(下記の図226。上記の期間内に追加の情報等が提出されない場合、集中は届出されなかったものとみなされる 27

図2 90条3号に基づく追加情報等提出請求および提出の流れ

図2 90条3号に基づく追加情報等提出請求および提出の流れ

 提出する文書は原則としてスペイン語の文書でなければならず、他の言語で作成された文書を提出する場合にはメキシコの裁判所により認定された翻訳者によるスペイン語訳とともに提出する必要がある 28実務上重要な点として、2020年1月以降、連邦経済競争委員会による企業結合審査は電子システムを通じてなされることとなっており、文書等の提出は概ね電磁的に提出することとなった 29

 届出の際には届出手数料の支払証明書を提出する必要がある(支払証明書の提出がない場合には届出は受理されない)30。届出手数料は毎年更新されるが2022年は210,818.13メキシコペソ(約116万円)である 31

審査

 原則として、届出またはすべての追加情報等を受領した日から60営業日以内に届出に関する決定がなされる 32 。事案が例外的に複雑な場合には、連邦経済競争委員会は追加で40営業日まで延長できる(下記の図333。この決定のための期間内に決定がなされない場合、届出された集中は承認されたものとみなされる 34。連邦経済競争委員会は、決定に際して、通知された集中から生じうる反競争的効果等を排除または軽減するための措置を講ずることを集中の承認の条件とすることができるが、このような条件付きの承認は事業者から反競争的効果等を排除または軽減するための措置の提案がなされた場合にのみなしうる 35。事業者は、届出に際してまたは届出の後に、反競争的効果等を排除または軽減するための措置の提案書を提出することができる 36。この提案書が届出受理後に提出された場合には、上記の決定のための期間は当該提案書が提出された時点から起算される 37。連邦経済競争委員会は、審査の過程で反競争的な懸念があると判断する場合にはその旨を届出事業者に通知し、反競争的効果等を排除または軽減するための措置の提案書を提出する機会を与える必要がある 38

 審査においては、関連市場、市場におけるサプライヤー、シェア、他の競争者や需要者等、集中がもたらしうる市場における効率性、集中により生じうる事業者の影響力の増大や参入障壁等の多数の要素が考慮される 39。これらの考慮要素についてもガイドラインで詳しく説明されている 40

 集中に関し承認が得られると、集中に関する行為を会社の帳簿に記録し、公文書への記載または登記をすることができるようになる 41

図3 90条に基づく審査の流れ

図3 90条に基づく審査の流れ

速やかな審査

 なお、上記3-2および3-3は通常の届出および審査の場合の流れであるが、連邦経済競争法は特別な届出および審査についても定めている。事業者は届出に際し、集中が明らかに反競争的効果等を有しないことを示す情報および証拠を提出することができ、さらに、事業者が関連市場における新規参入者である等の法定の要件を満たす場合には、速やかな審査をするように請求することができる 42。この届出における届出書への要記載事項と要添付書類は通常の届出の場合と同様である 43。この届出の場合、連邦経済競争委員会は、届出受領日から5営業日以内に法定の要件を満たすか等を判断し、法定の要件を満たしかつ情報に不足がないと判断する場合には速やかな審査をする旨の決定をする 44。速やかな審査をする旨の決定がなされた場合には、連邦経済競争委員会は、当該決定から15営業日以内に、集中が明らかに反競争的効果等を有しないかどうかを判断し、承認または不承認の決議をする(下記の図4のA.45。この期間内に決議がなされない場合には集中は承認されたものとみなされる 46

 逆に、法定の要件を満たさないまたは情報が不足していると判断する場合には通常の届出がなされた場合と同様に審査する(下記の図4のB.47

図4 92条に基づく審査の流れ

A. 連邦経済競争委員会が速やかな審査をする旨の決定をする場合

A. 連邦経済競争委員会が速やかな審査をする旨の決定をする場合

B. 連邦経済競争委員会が速やかな審査をしない旨の決定をする場合

B. 連邦経済競争委員会が速やかな審査をしない旨の決定をする場合

調査および制裁

調査

 事前に連邦経済競争委員会の審査を受け、承認された集中は原則として調査の対象とならない 48。一方、届出が必要であるにもかかわらず届出をせずに実行された集中は調査の対象となる。また、集中につき承認を得た場合であっても、届出において虚偽申告等があった場合や、条件付きの承認がなされたにもかかわらず指定された期間内に条件が満たされなかった場合には調査の対象となる 49

 第2回3-2に記載の確約手続は集中について調査が開始された場合にも利用できる 50

制裁

 第1回6-1に記載のとおり、違法な集中に対する行政上の制裁は、原則として最大で違反者の1年間の売上の8%の制裁金 51 と是正、禁止、分割等の命令 52 である。なお、違法な集中に対する制裁は集中に関する届出が必要であるにもかかわらず届出義務を履行しなかった場合の制裁とは別であり、後者は5,000 UMA(約265万円)および違反者の1年間の売上の5%以下の制裁金である 53。なお、届出義務不履行の場合において、集中が違法な集中であると判断された場合には上記の双方の制裁が課される。条件付きの承認がなされたにもかかわらず条件を満たさなかった場合の制裁は違反者の1年間の売上の10%以下の制裁金であり、比較的厳しい制裁となりうることに注意が必要である 54

 行政上の制裁は違反者である法人に対してのみなされるのではなく、取締役等が違法な集中に関与していた場合には5年以下の取締役等としての資格剥奪とともに、200,000 UMA(約1億600万円)以下の制裁金が当該取締役等に対する制裁として課されうる 55

 また、第1回6-3に記載のとおり、違法な集中により損害を被った者は、法定の要件を満たせば、損害賠償を求めて特別裁判所に訴訟提起できる 56

 なお、承認が必要であるにもかかわらず承認を得ることなく実行された集中は、法的効力を生じない 57

(注)本稿は、メキシコの法律事務所であるBasham, Ringe y Correa, S.C.León Efrén Jiménez Domínguez氏およびJuan María López Cortina氏の協力を得て作成しています。


  1. 連邦経済競争法61条 ↩︎

  2. 連邦経済競争法61条、62条ならびに127条1号、2号および7号 ↩︎

  3. 連邦経済競争法65条 ↩︎

  4. 連邦経済競争法86条ないし92条 ↩︎

  5. 連邦経済競争法93条 ↩︎

  6. 連邦経済競争法61条ないし65条および86条ないし93条 ↩︎

  7. 連邦経済競争法61条 ↩︎

  8. 連邦経済競争法86条および連邦経済競争法87条 ↩︎

  9. Unidad de Medida y Actualización(通称「UMA」)という、法令上支払われるべき金額を算出するための経済単位である。2022年現在、UMAはhttps://www.inegi.org.mx/temas/uma/にて確認可能である(1UMA=96.22メキシコペソ)。円換算は1メキシコペソ=5.5円とした。 ↩︎

  10. 連邦経済競争委員会、“Guía para la notificación de concentraciones”、20頁 ↩︎

  11. 連邦経済競争委員会、“Guía para la notificación de concentraciones”、20頁 ↩︎

  12. 連邦経済競争法86条2号および3号 ↩︎

  13. 連邦経済競争法93条 ↩︎

  14. 連邦経済競争委員会、“Guía para la notificación de concentraciones”、25頁から28頁 ↩︎

  15. 連邦経済競争法3条5号、12条、61条および86条 ↩︎

  16. 連邦経済競争法5条 ↩︎

  17. 連邦経済競争委員会の企業結合ガイドラインとして“Guía para la notificación de concentraciones”があり、連邦通信機構の企業結合ガイドラインとして“Guía de concentraciones”がある(いずれもスペイン語)。 ↩︎

  18. 連邦経済競争法88条 ↩︎

  19. 連邦経済競争法89条 ↩︎

  20. 連邦経済競争法89条 ↩︎

  21. 連邦経済競争委員会、“Guía para la notificación de concentraciones”、35頁から43頁 ↩︎

  22. 連邦経済競争法90条1号 ↩︎

  23. 連邦経済競争法90条1号。請求は翌営業日に効力が発生するのであり、そのさらに翌営業日から不足情報等提出期間が起算される。 ↩︎

  24. 連邦経済競争法90条1号 ↩︎

  25. 連邦経済競争法90条3号。上述の不足情報等提出期間と異なり、届出受領日から追加情報等提出期間が起算される。事案が例外的に複雑な場合には、連邦経済競争委員会は連邦経済競争法90条6号に基づき追加で40営業日まで延長できる。 ↩︎

  26. 連邦経済競争法90条3号 ↩︎

  27. 連邦経済競争法90条3号 ↩︎

  28. 連邦経済競争法112条および113条 ↩︎

  29. 連邦経済競争委員会、“Lineamientos para la notificación de concentraciones por medios electrónicos ante la Comisión Federal de Competencia Económica”、11頁 ↩︎

  30. 連邦経済競争法規則25条 ↩︎

  31. 連邦手数料法(Ley Federal de Derechos)77条および “Resolución Miscelánea Fiscal para 2022”別紙19。円換算は1メキシコペソ=5.5円で計算した。 ↩︎

  32. 連邦経済競争法90条5号 ↩︎

  33. 連邦経済競争法90条6号 ↩︎

  34. 連邦経済競争法90条5号 ↩︎

  35. 連邦経済競争法90条5号および91条 ↩︎

  36. 連邦経済競争法90条 ↩︎

  37. 連邦経済競争法90条 ↩︎

  38. 連邦経済競争法90条5号 ↩︎

  39. 連邦経済競争法63条および64条 ↩︎

  40. 連邦経済競争委員会、“Guía para la notificación de concentraciones”、49頁から55頁 ↩︎

  41. 連邦経済競争法86条 ↩︎

  42. 連邦経済競争法92条 ↩︎

  43. 連邦経済競争法92条および89条 ↩︎

  44. 連邦経済競争法92条 ↩︎

  45. 連邦経済競争法92条 ↩︎

  46. 連邦経済競争法92条 ↩︎

  47. 連邦経済競争法92条 ↩︎

  48. 連邦経済競争法65条 ↩︎

  49. 連邦経済競争法65条 ↩︎

  50. 連邦経済競争法100条 ↩︎

  51. 連邦経済競争法127条7号 ↩︎

  52. 連邦経済競争法127条1号および2号 ↩︎

  53. 連邦経済競争法127条8号 ↩︎

  54. 連邦経済競争法127条9号 ↩︎

  55. 連邦経済競争法127条10号 ↩︎

  56. 連邦経済競争法134条 ↩︎

  57. 連邦経済競争法86条 ↩︎

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