証券アナリストに役立つ監査上の主要な検討事項(KAM)の好事例集
コーポレート・M&A
目次
※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.191」の「特集」の内容を元に編集したものです。
本年2月、公益社団法人日本証券アナリスト協会より「証券アナリストに役立つ監査上の主要な検討事項(KAM)の好事例集」が公表されました。
「監査上の主要な検討事項(KAM: Key Audit Matters)」とは、会計監査人が監査役等と協議し、財務諸表の監査において特に重要であると判断した事項です。
日本証券アナリスト協会では、KAMの好事例集として26社を選定、高く評価できるポイント等が解説されています。
監査人との協議、株主総会での想定問答の検討等、KAMに係る各種対応を求められる発行会社としても投資家に評価されるKAMの内容を把握することは有用と思われます。本稿では多くの会社に関係すると思われる項目を記載している3例(三菱UFJ信託銀行による抜粋版)を紹介いたします。
① 立体駐車場事業に属する子会社の取得により認識されたのれんの減損損失の認識の判定
監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 | 監査上の対応 |
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② 連結財務諸表注記「重要な会計上の見積り」及び「報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報」に記載されているとおり、2021年3月期の連結貸借対照表に計上されているのれん残高は2,819百万円(総資産の4.02%)である。その残高のうち2,382百万円は立体駐車場事業の子会社の取得により認識されたのれんである。
(中略) ③ 子会社の取得時に策定された事業計画においては、市場における需要の獲得等により収益の拡大が見込まれていた。しかし、2020年3月期及び2021年3月期における同社の営業損益は当初計画を下回り、継続して営業損失が計上されている。 (中略) ④ 割引前将来キャッシュ・フローの総額は、子会社の事業計画を基礎として、将来の駐車場の運営業務の新規契約に対する入札の成否、また駐車場の運営業務の新規受託、その運営業務契約の継続及び解約などを考慮した駐車場運営業務の年間増加件数等の重要な仮定を反映して算定されている。この将来キャッシュ・フローの見積りは長期にわたるため、見積りの不確実性及び経営者による主観的な判断の程度が高い。 |
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選定理由 | |
① 立体駐車場事業について、具体的な内容を見出しに入れている。 ② のれん残高の金額だけでなく、総資産に占める比率も記載されており、KAMの選定理由が分かりやすい。 ③ 立体駐車場事業に減損の兆候があることを、被監査会社固有の情報に基づき説明している。 ④ 将来キャッシュ・フローの見積りに不確実性がある理由が具体的に解説されており、KAMの選定理由を理解しやすい。 ⑤ 監査上の対応について、内部統制の評価に加え、子会社の事業計画の妥当性を評価する方法が、具体的に記載されている。 |
機器部門のたな卸資産の評価
監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 | 監査上の対応 |
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①【連結貸借対照表】に記載されているとおり、会社は、2021年3月31日現在、たな卸資産を36,329百万円(総資産の23.8%)計上している。このうち、【注記事項】(重要な会計上の見積り)に記載されているとおり、●●●株式会社の機器部門に関連するたな卸資産が21,585百万円(総資産の14.1%)含まれており、当該たな卸資産に対して評価損1,371百万円が計上されている。 ●●●株式会社の機器部門のたな卸資産は、主に多品種の少額部品から構成されている。納品までのリードタイムに相当期間を有する等の理由から、主要な部品については一定量のたな卸資産を手元保有する必要がある。たな卸資産の評価減の算出には、滞留期間等に応じた評価減率を利用したシステムによる自動計算のほか、保有量と比較して払い出し実績が少ないたな卸資産について、将来の販売見込みを評価して、手作業により評価減額を計算する方法を組み合わせている。 (中略) たな卸資産の将来の販売見込みについては、主要得意先が属する半導体、自動車及び工作機械等の市況や米中間の政治的リスク、それに伴う顧客の投資計画見込みによって影響を受け、(中略)業界の景気に大きく影響される可能性が高く、このように将来の販売見込に基づき算定されるたな卸資産の評価金額は、仮定、見積りまたはその他の判断に本質的に依存し、複雑性及び不確実性を伴う。 以上のことから、当監査法人は当該事項を監査上の主要な検討事項に該当するものと判断している。 |
(前略) ②
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選定理由 | |
① KAMの内容及び決定理由について、金額的重要性、被監査会社の開示の参照箇所、たな卸資産の評価損に係る手続が過不足なく記載されている。また、対象としている部門の資産について、事業の特性や評価上の特徴、手続が比較的具体的に記載されているため、決定理由の理解が深まる。 ② 監査上の対応における諸手続の記載においては、会社への質問・ヒアリングといった一般的なものに止まらず、バックデータによる検証の方法も記載されているなど、具体性が比較的ある。 |
① ●●●株式の評価(連結財務諸表に対する注記 8. 関連会社に対する投資を参照。)
監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 | 監査上の対応 |
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(前略) 当監査法人は、以下の要因から、●●●株式の評価が、監査上の主要な検討事項に該当すると判断した。 (中略) ②
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(前略) ③
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選定理由 | |
① KAMの見出しに対象の社名が具体的に記載されている。また、企業による開示の参照箇所も見出しに掲記されており、本文に埋もれず視認性が高い。 ② 持分法対象の非上場関係会社の株式価値について取り上げられている。資産や純損益等における金額的な重要性がある一方で、持分売却後に子会社でなくなったことから開示が変化しており、証券アナリストの関心が高い事項である。またKAMの選定理由・視点の説明がルール面と実態面から記載され、具体的である。 ③ 監査上の対応における関係会社の株式価値評価に関する手続の内容が具体的である。 |
三菱UFJ信託銀行
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