法務担当者のための転職ガイド
第3回 法務の履歴書・職務経歴書の書き方 サンプル付き - マイナス要素をプラスに転じる文例も紹介
法務部
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目次
この記事では、転職活動中の法務担当者に向けて、応募の最初のアクションとなる履歴書と職務経歴書について、基本的な考え方や書き方の工夫を紹介します。アピールにつながりにくい経歴など、悩みがちなポイントについても対処法を教えます。
履歴書だけで不採用とされないために
求人に応募する際にはほとんどの場合、履歴書と職務経歴書を提出するわけですが、どちらを先に作るかといえば履歴書です。履歴書は事実や情報を書くもの。加工しようがなく、常日頃アップデートしておけばいいので楽ですよね。
履歴書の作成は、手書きではなくWord等のフォーマットを使いましょう。一昔前までは紙で提出することで丁寧さや熱意をアピールすることもできましたが、現在は、紙の履歴書はむしろマイナス評価につながるケースもあります。例外的に、昔ながらの法律事務所の中には、いまだに手書きが好まれるところもありますが、ほとんどの一般企業では、ウェブ上やメールでのデータ提出が主流です。
採用側にとっての履歴書は、ある程度の「当たりをつける」ために読む書類です。事実として、履歴書だけで不採用とされることはあります。私も採用側に立つときは履歴書から見ています。履歴書を見てから職務経歴書を見ると、その人の仕事観や仕事の選び方、センスなどが見えてくるのです。
転職回数が多いなど不利な要素がある場合は、履歴書に「詳細については職務経歴書に記載しておりますので、あわせてご確認ください。」と補足するなど、履歴書だけで判断されないように工夫しておくことをおすすめします。
- 履歴書は「事実」を記載する書類
- データでの作成が基本
- 履歴書だけで不採用となる場合もある
職務経歴書の基本的な形式と考え方
職務経歴を書く順番は新しい順?古い順?
職務経歴書の一般的な項目は、おおよそ次のとおりです。これまでの経験や貢献、そしてこれからやってみたいことを、応募先に合わせた内容にまとめあげて伝えるのが基本です。
- 職務要約
- 職務経歴
- 活かせる経験・知識・技術
- 自己PR
- 志望動機
職務経歴書のテンプレートはウェブ上でたくさん見つけることができますが、実は正解はありません。時系列で書くのか、直近から記載するのか、それとも何社か抜粋して書くのか。いろんな書き方がありますが、一例としてオーソドックスなサンプルをあげておきます。
職務経歴書の作成例
ポイントは、「応募先に一番アピールしたい経験は何か」を考えること。過去に何社か転職した結果、応募先と関連づけやすいのが直近の会社であれば、その職歴から記載するべきですし、自然と分量も多くなるでしょう。この点については次の3.で詳しくお話しします。
転職活動が初めてで、何から書けばいいかわからないという人は、次の4つのステップで進めるといいでしょう。
- どの会社に何年いたか、どんな部署に配属されたかなど、これまでの経歴を箇条書きであげていく(スマホでもOK)
- 具体的に担当した業務や大変だったこと、成功体験(失敗体験でも構いません)などを少しずつ肉付けしていく
- 書き出した内容の中から、応募先に合うもの ≒ 伝えたいことを表現できるものをピックアップする
- ピックアップした内容を、応募先に合わせてアレンジしながら職務経歴書のフォーマットに入力する
適正な枚数は何枚?
職務経歴書はA4で2枚に収めるのがスタンダードだといわれていますが、経験が増えるほど伝える内容も増えるはずなので、3枚以上が絶対にNGというわけではありません(上記のサンプルでも3枚になっています)。
ただし、長くなる場合は、特に伝えたいところを太字などで強調したり、冒頭に、エグゼクティブサマリーのような簡潔な概要を記載したりするなど、読み手の負担を軽くするための工夫をしましょう。経歴をひたすら詳細に書き連ねただけの、巻物みたいな職務経歴書は読んでもらえません。
書類選考に通過したら結局、面接で話すわけですよね。会わないとわからないことを話し合うのが面接です。書類はその前段階として、採用側に興味を持ってもらうためのもの。 したがって、すべてを書類で表現し尽くす必要はありません。映画でたとえるなら職務経歴書は「予告編」です。予告編で結末まで見せてしまったら、本編を見たいという気持ちはあまり高まりませんよね。伝えたい内容は漏れなく記載するものの、この続きは面接でお話ししましょう、というスタンスを意識してください。
複数の応募先への使い回しは原則NG
職務経歴書は応募先企業に対する「手紙」のようなものです。「御社が募集しているポジションに私の経験はこういう形でマッチします。だから一度お会いしませんか?」という手紙。その手紙が自分宛てではないと感じたら、採用側は面接したくないと考えるわけです。
だから原則として、職務経歴書は1社ごとに作り替えるのが理想です。
- 職務経歴書では、応募先に一番アピールしたい経験は何かを考える
- 3枚以上になる場合は読みやすくする工夫を
- あくまで「映画の予告編」のつもりで書く
- 応募先ごとに書き分ける

応募先と自分との「接点」をアピール
自分の経験との接点を見つけて強調する
応募するにあたっては、「自分のこういうところが活きそう」とか、「こういう仕事に興味がある」とか、何かしらの思いがあると思います。それらとこれまでの経験との「接点」をいかに作り、強調できるかが大切です。
たとえば、これまで3社経験してきた人がいたとして、1社目の経験が求人内容とほとんど無関係であれば、そこについて長々と書いたとしても、採用側は自分宛ての手紙ではないと感じるでしょう。応募先と自分との接点を厚めに書くことが、職務経歴書の基本的な考え方です。
接点がない場合はどう書くか
未経験の業務分野に挑戦するための転職活動など、接点が見つけにくい場合もあると思います。
たとえばあなたに、英文契約に携わりたいという希望があるとします。現職では基本的に日本国内の契約しかない。稀にあったとしても法律事務所に丸投げしている。そういう環境から脱却して英文契約の実務を経験してみたい。であれば、そこを正直に書いてください。「できなかった」ということが、興味を持ったきっかけなんだと伝えましょう。
ここで大切なのは、意欲はあるが担当する機会がなかったという事実を、きちんと書いておくことです。これで採用側には、「やりたくてもやれない環境にいたんだな」と理解してもらうことができます。
このような事実を書いたうえで、志望動機として「上記の理由により転職を検討しました。貴社であれば海外企業との取引も多いため、私の求めている経験を積めると考えています」と記載する。これが接点です。
こういう伝え方は、「若手の職務経歴書には使えるけれど、38歳の私が書くのはちょっと…」と感じる方もいるかもしれません(個人的には、新しい仕事にチャレンジしたいという意欲があること自体が素晴らしいと思いますよ!)。その場合は、自身の強みを正しくプレゼンし、ポジティブな要素と合わせて伝えることが必要です。要は、「私は貴社で英文契約の経験、スキルを手に入れたい。その代わり、今までの私のこういう経験は貴社にとってメリットがあるのではないか」というギブアンドテイクの観点です。
先ほどの英文契約の例を、38歳の人に当てはめるとするなら、「現職では若手メンバーの管理や社内稟議規程の作成を担当し、このような業務については即戦力として貢献できます。そのうえで新たな挑戦として、英文契約のスキルを身につけたいと考えています。」という書き方が考えられるでしょう。
転職というのは「私の経験を御社はいくらで買ってくれますか?」と交渉する「商行為」です。自分をプレゼンできなければ、高く買ってもらうことはできません。
- 応募先企業と自分の経験との接点を見つけて強調する
- 経験できなかったという事実も接点になり得る
- 自分の強みを正しくプレゼンする

志望動機の書き方
職務経歴書に「志望動機」は必要?
志望動機は、職務経歴書に必ず含めなくてはならない項目というわけではありませんが、アピールにつながる内容にできれば効果的です。
エージェントを使う場合には、エージェントにて志望動機をお預かりし、エージェントが書類のカバーレター(表紙)に記載して応募先へ提出することが多いです。エージェントを通さない場合には、職務経歴書に記載しておくとよいでしょう。
応募先企業での仕事をイメージする
志望動機を書くうえでは、応募先企業で自分が働く姿をイメージし、どういう仕事があるか仮説を立てることが大事です。この過程を経ることで、採用側に「当社のことをそこまで考えてくれたのだな」と思ってもらうことができます。
たとえば応募先が、誰もが知る著名企業で、あなたはそのブランドに惹かれたとします。そうすると、その企業には、ブランドを背負った法務業務があるのだという仮説が立ちます。この仮説に基づくと、志望動機としては次のような内容が考えられるでしょう。
「貴社のような著名企業では、たった1つのミスがブランドを傷つけることさえあると考えます。私は、そのような緊張感のある環境でスキルを磨いてまいりたいと考えております。」
この段階では、あくまで仮説で大丈夫です。そして面接に進むことができたら、面接担当者と話しながらその仮説を検証すればいいのです。
事業内容に惹かれた場合
応募先の事業内容に興味を持ったことが応募の動機であれば、興味を持った背景や理由まで含めて書いてください。
たとえば単一事業企業で長く働いてきた人がベンチャー企業に応募するならば、次のような書き方です。これも仮説でかまいません。
「1つの事業を守り抜くことも大事ではありますが、今後は、試行錯誤を繰り返しながら新たな価値を社会に提供している貴社に身を投じ、さらなる成長を目指したいと思っております。」
しかし、「特に志望動機がないからとりあえず事業内容のことでも書いておくか」という気持ちで書くなら、書かないほうがいいです。そのような表面的な志望動機は、採用側に見透かされてしまいます。
給与・待遇が理由の場合
では、現職の給与に不満な場合はどうでしょうか。年収アップのための転職活動は実際、多いと思います。
ただ、給与に関しては一般的に、面接を経て選考の最後に調整が行われるため、職務経歴書の段階で伝えるのはおすすめしません。面接に進んだ段階で、「実は給与も、転職する動機の1つなんです」と正直に話すほうがいいでしょう。
労働時間が理由の場合
激務が続いて疲れてしまったとか、個人的な事情で残業がしにくいといった理由で転職を考える人もいるでしょう。
基本的には、残業などの労働環境について厚く書くのはもったいないと思いますが、それがあなたにとって重要なポイントなのであれば、記載しておく必要があります。
ここでも、第1回でお伝えしたとおり、自分の転職活動の目的や優先順位の見極めが大事です。そこを考えたうえで、書くか書かないか、書き方の強弱をどうつけるかを判断してください。
まず、残業が多すぎて転職したいという場合の書き方を考えてみましょう。単に「激務であったため」と書いたら、採用側にどう伝わるでしょうか。採用側としては、どの程度の激務なのかがわからないし、もしかしたら仕事の意欲があまりないのかな、と思ってしまうかもしれません。
ポイントは、共通の尺度を使って具体的かつ客観的に表現することです。
たとえば、「月60〜80時間くらいの超過勤務が続いており、継続的に勤務することが難しいと思い、転職を検討いたしました。」と書けばわかりやすいですよね。もし応募先での「激務」が月30時間程度だったとしたら、「そんなに働いていたなんて大変だったんだな。頑張ってきた人のようだから会ってみようか。」と前向きに捉えてもらえるはずです。
また、定時で帰れる環境が、今回の転職で絶対に手に入れなければならないものであれば、正直に記載することも大切です。可能であればその背景も含めて伝えられればなおよいと思います。
採用側から見ると制約条件になるため、応募先は絞られる可能性が高まります。ですが、あらかじめ伝えて、その結果不首尾に終わったとしても、それはむしろよかったといえるかもしれません。残業できないことを明確に記載しても面接に進めるのであれば、わかったうえで会ってくれているという前提もできます。
職務経歴書を相手にとって耳障りのいいことだけで固めて採用されたとしても、入社後、ギャップやミスマッチに苦しむことになりかねません。
- 応募先企業で働いている自分をイメージして仮説を立てる
- 興味を持った背景・理由まで含めて書く
- 待遇や労働時間については基本的には書類に書かない
- 転職活動の目的として重要な要素は、選択肢が狭くなる可能性はあるが記載することも検討する

自己PRの書き方
具体的なエピソードのNGパターン
一般的なノウハウとして、「自己PRには具体的な数字やエピソードを盛り込んで説得力を持たせましょう」ということがよくいわれます。しかしだからといって、あなた自身がすごいと思っているエピソードをただダラダラと書いても読まれません。
重要なのは、その実績を転職先で再現できるイメージを、採用側に持ってもらえるように書くことと、先ほども話したように、共通の尺度で客観的に判断してもらえるように書くことです。
たとえば契約書レビューについて、年間や月間の件数を記載することが多いと思いますが、企業によって状況や前提は大きく違っています。定型的な取引が多く、速く大量にさばくことが大事な法務部もあれば、新しいビジネスの立ち上げから関わり、取引先との交渉も含めて事業部をサポートすることを重視する法務部もあるでしょう。
ですので、単に年間何件と書くだけでは、あなたがすごいと思っている数字だとしても、むしろ逆効果かもしれません。どのような取引で、法務としてどのような関わり方をしたのかまで書いて初めて、正確に伝わるのです。
自己PRでもう1つ大事にしてもらいたいポイントは、「これは自分だからできた」というエッセンスを入れること。誰にでも、自分なりの工夫や、人とは違うやり方をしたことがあるはずです。それをどういう課題感に基づいて行ったのかという点も含めて伝えると、読み手はいっそう興味を持ちます。
不利な職務経歴の伝え方
職務経歴の中には、強みばかりではなく、あまり触れられたくないネガティブな部分もあるでしょう。3か月で辞めてしまった会社があるなど、アピールにつながらない過去がある場合は、変に取り繕うのではなく、「こういう私でも受け入れてくれますか」というスタンスで臨むほうがいいです。
一番大事なのは、「そこから何を学んだか」「どんな自分に気づいたのか」という結果の部分です。その出来事があって自分はどう変わったのかを記載してください。職務経歴に書いてもいいですし、備考欄を別途作って簡単に説明してもいいです。無理に隠すよりも、その経験から得たものを伝えたほうがプラスになります。
また、最初の就職活動がうまくいかなかったとか、不本意な配属や異動があったなどの理由から、年齢に比して法務経験が浅いという方もいるでしょう。
このような場合も、やはり仮説でいいので、法務以外の経験をどのように法務業務にフィードバックできるか、どう役立てられるか、を記載できるとプラス評価につながります。
たとえば営業部門の経験のほうが長いという場合、事業の当事者としてフロントで得た経験は貴重です。法務以外の経験をしたからこそ視野が広がったのだ、という観点で伝えてください。
- 実績を転職先で再現できるイメージを、採用側に持ってもらえるように書く
- 共通の尺度で客観的に判断してもらえるように書く
- 自分なりの工夫をした経験を、その基になった課題感とあわせて書く
- ネガティブな過去や法務以外の経験は、そこから得たものを伝える

自己PRに法務のトレンドを取り入れるなら
最後に、最近のトレンドを少しお話ししておきます。
コロナ禍以降、リモートワークできる環境があるかどうかを応募先の条件にする求職者は確実に増えていると感じます。採用側でも、ベンチャー企業を中心として、リモートワークが常態化しているところは増えています。
こうした働き方は今後スタンダードになっていくと思われますので、リモート下でも専門職としての価値を発揮できるという柔軟性をアピールしていくのは1つの手だと思います。
また、リーガルテックによる業務効率化を模索する法務部が増えていることから、テクノロジーに抵抗感を持たず積極的に活用していける人材であることを示すのもプラスに働くでしょう。リーガルテックを上手に活用できる方は、これからの時代の働き方にアジャストしていけると思います。
さらに、多くの法務部で、事業や経営への貢献を重視するようになっているため、現場や事業部門と近い距離感で緊密に連携できることをアピールするのもおすすめです。事業成長のための法務でありたいという意識で日々の仕事に取り組んでいる人材なら、どこに行っても重宝されるでしょう。
- リモートワークでも能力を発揮できる柔軟性をアピールする
- リーガルテックへの関心や意欲は高評価
- 事業成長への貢献を志向するマインドをアピールする
今回は、履歴書と職務経歴書の作成について、基本的な考え方や書き方の工夫をお話ししてきました。ご自身の転職活動の目的とその優先順位を見極め、応募先企業との接点を見つけたうえで、「ぜひ会ってみたい」と思わせる書類を作ってみましょう。
次回は、応募先企業をどう選べばいいかについてお話しします。

西村英貴
弁護士ドットコム キャリア事業部 事業部長
インテリジェンス(現パーソルホールディングス)、リクルートキャリア(現リクルート)を経て、2016年弁護士ドットコムへ入社し、弁護士特化型の転職支援サービス「弁護士ドットコムキャリア」を立ち上げ。その後、2018年管理部門専門転職支援サービス「EXCAREER」をリリース。一貫して転職支援事業に従事し、これまで2000名以上のカウンセリングを実施。
(文:枚田 貴人、取材・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)
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