不当廉売における「商品又は役務」の範囲 令和を展望する独禁法の道標5 第13回

競争法・独占禁止法
石山 修平弁護士 弁護士法人協和綜合パートナーズ法律事務所

目次

  1. はじめに
  2. 不当廉売成立の要件
  3. 昭和における裁判例
  4. 平成における公正取引委員会の動向
  5. 仮想事例の検討
    1. 総論
    2. 事例1について
    3. 事例2について
  6. 実務上留意すべき点
  7. 白石忠志教授のCommentary
実務競争法研究会
監修:東京大学教授 白石忠志
編者:籔内俊輔 弁護士/池田毅 弁護士/秋葉健志 弁護士


本稿は、実務競争法研究会における執筆者の報告内容を基にしています。記事の最後に白石忠志教授のコメントを掲載しています。
同研究会の概要、参加申込についてはホームページをご覧ください。

はじめに

 昨今、インターネットの発展、広告業態・ビジネスモデルの多様化等の事情により、1つの商品が複数の種類の収入を発生させたり、複数の商品が1セットとして販売されているような販売形態が多く見受けられる。このような販売形態の多様化に伴って、不当廉売の判断においても、売上や原価をどのように判断すべきかという点で頭を悩ませることが多くなってきているように思える。
 そこで、不当廉売の対象となる商品の範囲をどのように判断するか、下記仮想事例を基に検討を行う。

仮想事例

事例1
クラウドストレージサービスを提供するX社においては、利用料を2GBまで無料とし、2GBを超える場合には一定の金額を毎月支払うという設定でサービスを提供している。無料の製品のみで観察した場合、サービスの供給に要する費用である研究費用を適切に配賦したうえで、広告収入を加味したとしても、売上は供給に要する費用を下回る。しかし、有料製品も含めれば、売上が供給に要する費用を上回るように価格を設定している。

事例2
Y社は、コーヒー飲料を製造販売しているところ、新たにカプセル式のコーヒーAを販売することを企図している。これに伴い、当該カプセルを使用できるマシンBも製造し、BとともにAを販売することとした。競合が多数いる業界であることから、B自体については供給に要する費用を下回る価格を設定し、Aの販売によりBの赤字分を回収できるようなビジネスモデルで進めることとした。

 上記2つの事例はまったく性質を異にするもののように思えるが、いずれも不当廉売における「商品」をどのように把握すべきか、という点に問題が収れんされるものである。
 「商品」をどのように把握するのかという問題をめぐるこれらの仮想事例について、参考になるような昭和、平成の事案に対して説明を加えたうえで検討を行う。

不当廉売成立の要件

 不当廉売とは、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)において、不公正な取引方法の1つとして禁止されているものである。具体的には以下のとおりである。

  1. a.正当な理由がないのに、b.商品または役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価でc.継続して供給することであって、d.他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの(独占禁止法2条9項3号)
  2. ①に該当する行為のほか、a.不当にb.商品または役務を低い対価で供給し、c.他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること(不公正な取引方法 1(一般指定)第6項)

 特に、上記①は、一般指定第6項に定める不当廉売と異なり、累積課徴金 2 が課される類型である。
 そして、上記から明らかな通り、不当廉売の主な要件は、①低廉な価格設定、②公正競争阻害性、③事業活動困難性といった要件である。実際に、これら3要件について論じられることが多く、商品の範囲を画するような要件が別個独立の要件として論じられるようなことはないように思われる。しかしながら、上記の不当廉売規制においても「商品又は役務」が対象となる旨、条文に明記されているため、前提として商品や役務を特定する必要はあると考えられる。

 そこで、本稿においては、「商品又は役務」をどのように特定するのか、という点にフォーカスして議論を進めていくことにしたい。

昭和における裁判例

 昭和時代を代表する裁判例として中部読売新聞社事件(東京高裁昭和50年4月30日判決・高民28巻2号174頁)があげられる。
 本件は、中部読売新聞社が、提携先である読売新聞からの補助により廉価で抑えることができている費用および不当に高額となっている広告収入については、企業努力によるものではないとして、コストの修正を行った裁判例である。

中部読売新聞社の主張金額と認定金額

中部読売新聞社の主張金額と認定金額

 本件で注目すべきは、もちろん、企業努力によるものではない場合には、コストや収入の価格を修正される可能性があるという点ではあるが、それ以上に、新聞の販売価格以外(上記表における「広告等収入」に該当する部分)についても対価に含めたうえで、コスト割れの判断を行っている点である。つまり、新聞のようにプラットフォーマー的な性質を有しており、本来的な商品(新聞紙)の販売以外の収入がある場合には、そうした収入もコスト割れの判断に含めてよいという判断をしているのである。

 こうした判断は、「商品又は役務」という判断の範疇ではなく、あくまで対価の範囲を論じているものではあるが、少なくとも、単純な新聞紙の売買という商品ではなく、広告媒体という性質の異なる商品から生じる対価もコスト割れの判断に加味したという点で、非常に重要な先例であると思われる。

 なお、公正取引委員会は、不公正な取引方法については、市場確定の議論は不要であるとの立場を採用しているが、本件においては、あくまで東海地方の新聞業者の事業活動を困難にすると認定されており、公正取引委員会もこうした立場を前提に主張をしている。つまり、少なくとも、不公正な取引方法のうち、少なくとも不当廉売に関しては、事業活動困難性の要件において、 市場、特に地理的市場の議論を用いた判断手法を用いることが妥当であり、公正取引委員会としてもこうした判断手法を認容していることがわかる 3

平成における公正取引委員会の動向

 公正取引委員会は、平成に入り、不当廉売に関するガイドライン 4 を策定し、運用基準の明確化を行ったが、複数の商品をどのように取り扱うかという点には、先例の蓄積もなかったことから、同ガイドラインに一定の考え方が記載されるようなことはなかった。

 そんな折、複数商品を1つの商品として検討するか否かについて重要な点として検討すべき事案が発生した。KDDI株式会社(以下「KDDI」という。)およびソフトバンクテレコム株式会社(以下「ソフトバンクテレコム」という。)が、林野庁地方森林管理局が一般競争入札の方法により発注した衛星携帯電話の端末について、当該端末の供給に要する費用を著しく下回る価格(1円)で応札し、落札する行為が、不当廉売に該当する疑いがあるとして審査手続が行われたという事案である(公正取引委員会報道発表平成25年4月24日「林野庁地方森林管理局発注の衛星携帯電話端末の安値入札に係る独占禁止法違反被疑事件の処理について」)。
 当該事案において、公正取引委員会は、最終的に違反を認めずに審査を打ち切った。

林野庁地方森林管理局発注衛星携帯電話端末安値入札事件の概要

林野庁地方森林管理局発注衛星携帯電話端末安値入札事件の概要

 本件は、入札の対象範囲(衛星携帯電話の端末のみであるか、衛星携帯電話端末を用いる通信サービスも含むか)が不明確であったという特殊な事情はあるものの、林野庁森林管理局が落札事業者から通信サービスを随意契約により調達することが見込まれる状況の下で行われたものと認められるとしたうえで、KDDIおよびソフトバンクテレコムが1円で応札した行為は、落札事業者が通信サービスを提供することによって得られる事後の収入を考慮すると、当該端末の供給に要する費用を著しく下回る対価または不当に低い対価で供給するものとはいえないものであったということをその理由としている。
 つまり、本件においては、落札事業者が、入札対象物件のみではなく、当該入札物件に用いる他の役務についても、同じ事業者から購入する予定であったとして、落札者側の認識を重視し、衛星携帯電話端末と通信サービスといった別個の商品と役務を1つの商品としてコスト割れの判断を行ったのである。

 本件は、入札案件であり、また入札の範囲も不明確であるといった事情の下での判断ではあるが、落札者の認識を重視して、2つの商品を1つの商品としたうえでコスト割れの判断を行うことを、公正取引委員会としても許容していることがわかるという点で、非常に意味のある審査であったと思われる。

仮想事例の検討

総論

 既に記載した通り、仮想事例における問題点は、「商品」をどのように把握するかという点に収れんされるが、「商品」をどのように解釈すべきかという点については十分な議論が蓄積されていない。しかしながら、上述した林野庁の案件からもわかる通り、一定の場合には複数の商品を一体的に観察してコスト割れを判断する必要性が認められている。今後は、いかなる場合にこうした判断が可能であるか、言い換えれば、「商品」の範囲をどのように解すべきかという点が重要な問題になるように思われる。
 では、実際に「商品」をどのように検討すべきか。この点につき、公正取引委員会は、平成21年の不当廉売ガイドライン策定の際のパブリックコメントにおいて、一定の見解を示している。
 すなわち、1つのユニットとして販売しており、ユニット全体でみれば利益を創出している場合には、ユニット一式が「商品」に含まれることを明記すべきであるとの意見に対し、公正取引委員会は、一体として価格設定され、供給されていると認められる場合には、ユニットを「商品」としてみることになると回答しているのである 5。当該回答においては、あくまで一体として価格設定され、供給されている場合という非常に限定的な場合に限って、複数の商品を1つの商品として検討するとの回答であるため、一定の商品が時を異にして販売され、かつ別個独立に価格を設定されている場合には、当該回答の範囲外ということになる。したがって、その守備範囲はさほど広くないように思われる。

 しかしながら、不当廉売の規制趣旨が、経済合理性を有さない不当な価格設定を規制することにより、一定の市場における適正な価格競争を保護する点にあることからすれば、上記の場合に限定せずとも、市場において実質的に1つの商品と認識されているものについては、合算してコスト割れを判断することにも一定の合理性があると思われる 6。そして、これはあくまで私見にすぎないが、商品の性質、購入者の購入形態・認識 7、販売者の認識 8 等を考慮し、実際に当該商品が1つの商品として認識されたうえで市場において競争が図られているといえる場合には、複数の商品を1つの商品としてコスト割れの判断を行ってもよいのではないかと思われる

事例1について

 事例1については、商品の性質としては、いずれも同種の商品であり、一方の商品が片方の商品の拡張版に相当するものとなっている。つまり、無償版を使用し、スペックが不足していると感じた場合に初めて購入をするという関係にあることから、商品としての関連性は相当強く、またストレージサービスの役務提供者は、基本的に無償版も含めて1つの商品として企画立案し、市場で競争を図っていることが多いと考えられる。消費者としても、まずは無償版を使い、必要に応じてその機能を拡張していくという認識を有していると思われる。
 このように、販売者としても消費者としても1つの商品として認識しているという実情も加味すれば、有償版を含めて1つの商品と考えることができるような事案であると思われる。

 なお、こうしたサービス(特に無償版)においては、アフィリエイト収入等の広告収入も発生することが多いと思われるが、中部読売新聞社事件からも明らかなとおり、コスト割れの判断においては、こうした収入も、収入に含めて算定することが許容される可能性が高い。

事例2について

 事例2については、事例1とは異なり、商品の種類は大きく異なる。しかしながら、Aを使用するにはBが必要となるという関係性があり、いずれも2つの商品をもって効用を発揮する商品であることから、両商品の関連性は非常に強い。一般消費者としても、Bを購入すればAを購入することになるため、両商品は1つの商品として認識されていると考えることもできる。また、販売者側も両商品を1つの商品として利益を獲得していくビジネスモデルを企画立案している。

 そうすると、両者は一体的な商品として販売・競争されているといえる可能性が高く、AとBは1つの商品として、コスト割れを判断すべきと考えることもできると思われる。

実務上留意すべき点

 以上の通り、複数の商品が1つの商品として判断される余地はあると思われるが、実際にどのような場合に、複数の商品を1つの商品としてコスト割れを判断していくかという点については、統一的な見解がない。今後の議論や審決例等が待たれる。
 また、本稿で検討した問題の他にも、不当廉売においては、価格設定の合理性という観点から判断がなされることがあり、販売計画それ自体の合理性が問題となることも多い。そうすると、価格設定の経緯、根拠といった企画立案時における状況についても、検討を行う必要があるが、企画立案や価格設定の時点から法務部員の方が関与することは現実的ではないため、事後的な確認になってしまうことが多いと思われる
 したがって、価格設定についても慎重に行う必要があることを、担当各所にアナウンスしておくことや、コンプライアンス研修の一環として、不当廉売という法規制があるといったことだけでも頭出ししておくこと等によって、担当各所の意識改善に努めることが考えられる

 また、本稿については、不当廉売の観点から検討しているが、複数商品を1つの商品として検討することが認められるということは、両商品の関連性が強く、抱き合わせ販売となっている可能性もあるので、バンドルディスカウント等の観点からも別途検討が必要になることには注意が必要である。

白石忠志教授のCommentary


葉書事件


 葉書事件という事件がある。郵便局で売っている葉書(当時でいう「官製葉書」)には料額印面と呼ばれる切手のようなものが印刷されており、新たに切手を貼らなくても郵便ポストからの収集・運送・配達(「信書送達」)がされる。文具店やコンビニなどで売られる葉書の多くのもの(当時でいう「私製葉書」)は、需要者が別途、切手を購入して貼って初めて信書送達がされる。私製葉書を製造する会社が、郵便局(当時は国)を被告として差止めと損害賠償を請求する民事訴訟を提起した。主に、年賀葉書や暑中見舞葉書などを念頭に置いて争われた事件であった。

 大阪地裁判決は、請求を棄却した(大阪地裁平成4年8月31日判決・平成元年(ワ)第3987号、審決集39巻586頁)。いくつもの理由を掲げているが、その1つとして、年賀葉書はまとめて収集され配達されるので信書送達の費用が低くなることを掲げていた(上記リンク先で入手できるPDF(審決集39巻)の605頁((7))、606頁(「集配の…経費」))。

 私は、これに対し、郵便局の葉書は信書送達と葉書用紙から構成されており、私製葉書と真に競争しているのは葉書用紙の部分であるから、葉書用紙の部分の価格と費用を比べてコスト割れの有無を検討すべきである旨を論じた(白石忠志・大阪地裁判決評釈・ジュリスト1020号(1993年))。

 大阪高裁判決は、大阪地裁判決の結論を維持した(大阪高裁平成6年10月14日判決・平成4年(ネ)第2131号、審決集41巻490頁)。拙稿との因果関係は不明であるが、集配に関する言及は消え、「さくらめーる」と「かもめーる」では葉書用紙の部分についてコスト割れであった旨を述べたあと、公共性を根拠とする正当化理由に言及して、独禁法違反の成立を否定した(上記リンク先で入手できるPDF(審決集41巻)の498頁)。

 「葉書用紙の市場」というものを主張した上記のような私の検討に対しては、物理的に一体として売られる郵便局の葉書について、商品役務や市場を細分化して考えようとする技巧的な議論である旨の頭ごなしの否定論が支配的であった。官製葉書と私製葉書の競争関係、といった非対称的な表現が抵抗なく用いられていた。

 上記のような経緯があるためか、葉書事件は最近の議論において言及されることが少ないようであるが、現代的な示唆に富む重要事例であるように思われる。

  1. 昭和57年公正取引委員会告示第15号(平成21年最終改正) ↩︎

  2. 法定不当廉売を実施した事業者が、当該行為につき、公正取引委員会が調査を開始した日から遡って10年以内に、当該事業者またはその完全子会社が、法定不当廉売行為を行っており、かつ、当該行為につき排除措置命令または課徴金納付命令を下されていた場合には、課徴金納付命令が下されてしまうというものである(独占禁止法20条の4)。 ↩︎

  3. こうした判断は、石油の販売小売事業の審決においても多く採用されている。具体的には、公取委平成19年11月27日排除措置命令(平成19年(措)第16号:(株)シンエネコーポレーションに対する件)公取委平成19年11月27日排除措置命令(平成19年(措)第17号:(株)東日本宇佐美に対する件)等がある。 ↩︎

  4. 不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」(平成21年12月18日、最終改正平成29年6月16日) ↩︎

  5. 公正取引委員会報道発表平成21年12月18日「『不当廉売に関する独占禁止法上の考え方』改定案等に対する意見の概要とこれに対する考え方」における「1 不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」の9番 ↩︎

  6. 長澤哲也『独禁法務の実践知』(有斐閣、2020)339頁以下、白石忠志編『ビジネスを促進する独禁法の道標』(レクシスネクシス・ジャパン、2015)234頁以下(薮内俊輔担当)等においても、一定の場合に複数商品を合算してコスト割れを判断する旨述べられている。 ↩︎

  7. 上記林野庁の案件においては、競争入札という特質上、購入者に該当する者が、発注者である林野庁しかいなかったために、林野庁が、通信サービスを落札者(本件でいえばKDDIやソフトバンクテレコム)から購入する予定であったことを重視していると思われる。 ↩︎

  8. 対象となる商品についての商慣習等を加味し、合理的な認識であることが前提である。 ↩︎

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