BluAgeの内々定取り消し騒動、労働問題対応の要点を実務経験から弁護士が解説

人事労務
向井 蘭弁護士 杜若経営法律事務所

目次

  1. 騒動の原因は、通常と異なる選考過程や内々定取り消し理由の説明不足
  2. 労働問題は「正直」な説明と「早めの決断」を

2021年11月4日、部屋探しアプリを運営するスタートアップ企業である株式会社BluAgeは、2022年卒の新卒採用において21人の内々定者に対して内々定を取り消したことを公表、謝罪しました。SNSでは内々定を取り消されたと訴える投稿も見られ、大きな反響が寄せられています。

本稿では、使用者側の労働事件を数多く取り扱い、代理人として内定取り消しを行った経験を持つ杜若経営法律事務所の向井蘭弁護士に、「内定」「内々定」の法的位置付けと企業に生じる義務、本件が騒動となった要因などについて聞きました。

騒動の原因は、通常と異なる選考過程や内々定取り消し理由の説明不足

本件の概要と特筆すべきポイントについて教えてください。

BluAge社(以下「B社」)は、2021年4月から9月に47人へ内々定を出したうえで、9月に最終の採用選考プロセスを実施。10月2日に26人の採用を内定し、残りの21人に対して内々定を取り消したとのことです。

内々定を取り消されたとする内々定者によるSNSの投稿では、6月に内々定を受けたのち、内定解禁日である10月1日の直前に、座談会・グループディスカッションのため会社に呼ばれるとともに、そこで面接が行われ、10月2日に座談会の内容を理由に内々定を取り消されたと記載しています。また内々定の取り消しにあたり、明確な理由はなかったといいます。

本事案について、法的には、内々定と内定の判断基準、および内々定取り消しの法的性格が問題となります

採用活動における内定・内々定の違いと、企業に生じる義務や有効性について伺えますか。

内定とは、始期付解約権留保付の労働契約(入社はしていないが雇用契約が成立し、一定の条件のもとで解約が許される)と解釈されており、内定を取り消す場合は解雇と同様に扱われ、容易に認められません。

内々定とは、内定と異なり、労働契約ではなく、会社も内々定者も拘束しないものであり、内定とは異なり、内々定取り消しには制限はありません。

もっとも内々定取り消しに至った経緯の説明不足や内定予定日直前の取り消しなどが信義則に違反したとして、慰謝料を支払わなければならない場合もあります。

本件について理解するうえで知っておくべき過去の類似事例や裁判例はありますか。

内々定取り消し事案として有名なのがコーセーアールイー事件(福岡高裁平成23年3月10日判決・労判1020号82頁)です。これは、内定通知書授与予定日の2日前になって突然、会社が一方的に内々定を取り消した行為は違法だとして、不動産会社から採用の内々定を得ていた学生が会社に対し、115万5,000円の損害賠償を求めたものです。

裁判所は、内々定には法的拘束力はないとしつつ、会社側による以下の対応を指摘し、会社との間で確実に労働契約が締結されるであろうという学生の期待は、法的保護に値する程度に高まっており、その期待に反した行為は「信義則」に反したと判断しました。

  1. 内々定取り消しの可能性がある旨を学生に伝え、内々定者への対応につき遺漏なきよう期すべきところを実施していなかった
  2. さらに、内々定取り消しを内定の2日前に通知した

また労働契約法3条4項には、以下の定めがあります。  

4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。

信義則は「他人を裏切ったり、不誠実なことをしたりすることがないよう行動しましょう」という一般原則ですが、信義則違反を理由に損害賠償が認められる場合もあるため、企業の担当者は留意すべきといえます。

なお、コーセーアールイー事件の平成22年6月一審判決では、被告に110万円の支払い命令が出されましたが、二審では、被告に対する55万円の支払い命令に変更されました。

B社による本件では、11月4日に、株式会社BluAge 代表取締役 CEOの名義でお詫びと対応に関するリリースも公表されています。リリースの内容も踏まえ、なぜ本件が大きな波紋を呼んだと考えられますか。

弊社は、【2022年卒】新卒採用の応募者の方々の採用選考プロセスでは、複数回の個別面談などを経て、2021年4月から9月までの間順次、内々定をお出しし、内々定者は計47名に至りました。そして、採用内定に向けて、最終の採用選考プロセスを同年9月に実施させていただき、その最終評価に基づき、本年10月2日に26名を採用内定といたしました。」

株式会社BluAge「弊社新卒採用手続に関するお詫びと対応について」(2021年11月4日)から抜粋

内々定を出した後に改めて採用選考を行うこと、かつ最終選考を9月に行うということは非常に珍しく、通常の選考過程とは異なる事案です。しかし以下の通り、通常と異なる選考過程であることを会社は十分説明しておらず、この点が今回の騒動の原因になったものと思われます。

一方で、弊社は、内々定後も採用選考プロセスを継続している点や、最終の採用選考プロセスの評価によっては内々定を取り消す可能性がある点を十分にご説明しておりませんでした。この点については、内々定者の方々への配慮を大きく欠き、その結果、内々定者の方々へ多大なる混乱とご迷惑をお掛けするに至ったものであり、弊社側に問題があったものと真摯に反省しております。誠に申し訳ございませんでした。

株式会社BluAge「弊社新卒採用手続に関するお詫びと対応について」(2021年11月4日)から抜粋

また、B社は新卒内々定者に宅地建物取引士の資格取得を求め、不動産仲介業務に従事させようとしていたとみられますが、B社はこの数か月で事業構造を大きく変え、不動産仲介業務はほぼ行わなくなると予想されたことから、新卒内々定者に従事させる業務がなくなってしまい、その結果内々定取り消しを行ったのではないかとの推測もあります 1

真相は明らかにはなっていませんが、なぜ大量の新卒内々定者について10月に内々定を取り消したのかについての説明がなかったことも、騒動につながったものと思われます。

労働問題は「正直」な説明と「早めの決断」を

B社は2018年に設立されたいわゆるスタートアップ企業ですが、スタートアップ企業においてこうした採用活動の問題が発生しやすい理由も考えられますか。

スタートアップ企業は事業環境の変化が激しく、1年で売り上げや利益、事業内容が大きく変化します。一方、学生の新卒採用は採用活動から実際に働き始めるまでの期間が1年にわたることも多く、働きはじめるころにはスタートアップ企業の事業環境が変わり、内定取り消しに至ることもままあります。

当事務所が担当した事例においても、コロナ禍による業績悪化から、スタートアップ企業が内定取り消しを行ったこともありました。その際には、内定取り消しの意思決定後、速やかに内定者に連絡したうえで、面談して「正直」に説明・謝罪し、その結果内定契約解約合意書を取り交わすことができました。内定者はショックを受けていましたが「正直」な説明と「早めの決断」で紛争に至ることはありませんでした。

内定や内々定を出した学生に対して、企業側の事情により取り消しを行わなければならなくなった場合、企業はどのような対応をとるべきでしょうか。

筆者も実務上、代理人として内定取り消しを何度か行ったことがあります。書面のみを送って合意書を取り交わすだけで解決することも可能ではありますが、まずは電話で連絡をとって内定取り消しの旨とその理由を伝え、そのうえで面談を行い、面談の席で正式に謝罪をして、内定契約の合意解約について交渉をすることになります。

新卒の学生の場合、面談に親が同席することが多く、感情的なやりとりになることも少なくありません。しかし、ひたすら「正直」に事情を話し謝罪をすれば理解していただける場合が圧倒的に多く、これまでのケースではいずれも紛争になることはなく解決しました

よく行われるまずい対応としては、「経営の外部環境が変化した」などとやや言い訳めいた説明をする場合があります。しかし、そうした環境の変化も含めてすべて会社の責任であると認める方がよいと思います

なお、内々定の取り消しについても、内定予定日直前の取り消しであれば内定取り消しと同じような対応を行うべきだと考えます。

本件のような労働問題について、企業の担当者はどのような考えにもとづき対応すべきでしょうか。

ここでは2点紹介します。

1つ目は「正直」であることです。「正直」と言うのは会社が抱えている問題や内定取り消しに至る理由をなるべく包み隠さず正直に話すことです。内定者も会社の説明が正直であれば、当初は感情的であっても話を聞いてくれるようになります。

本件においてB社が正直ではない説明をしているとは言いませんが、事実経緯や説明内容に疑念を抱かれるところがあり、その疑念を解くような説明内容にはなっていないように思われます。

2つ目は「早めの決断」を行うことです。本件の内々定の取り消しが6月から7月ごろに行われていればこれほど大きな騒動にはならなかったのではないかと思います。いかに迅速に早めに決断・判断するかが重要となり、会社の業績や事業構造の変化に常に留意しておけばそうした決断も可能となります。


  1. Yahoo!ニュース「内々定者20名以上に「内定取り消し」、BluAgeとはどんな企業なのか」(2021年11月5日、11月16日最終閲覧) ↩︎

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